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2014年12月30日 (火)

排泄物と文明: フンコロガシから有機農業、香水の発明、パンデミックまで

■ 書籍情報

排泄物と文明: フンコロガシから有機農業、香水の発明、パンデミックまで   【排泄物と文明: フンコロガシから有機農業、香水の発明、パンデミックまで】(#2352)

  デイビッド ウォルトナー=テーブズ (著), 片岡 夏実 (翻訳)
  価格: ¥2,376 (税込)
  築地書館(2014/5/17)

 本書は、「われわれの中から、そしてすべての動物の中から出てくるこの物質を生態学学的な統一原理として、我々の進化の起源や根ざしているものまで遡って理解することができれば、周りに見えるウンコすべてと落ち着いた幸せな気持ちで付き合うことができるようになる」ことを目指したものです。
 第1章「舌から落ちるもの」では、「ウンコがやっかいな問題なかでも特にやっかいなのは、生態系や公衆衛生に及ぼす影響が大きのに、それについて語るための適当な共通言語すら私たちが持っていないからだ」とした上で、「この本で、それを複数の視点から探ることにする」として、
(1)言語の問題としての排泄物
(2)公衆衛生の問題としての排泄物
(3)生態学的な問題としての排泄物
の3点を挙げています。
 第3章「糞の起源」では、「どこに生育しているか、周囲にどのような生物がいるかによって、その地域での競争問題に対処する様々な戦略が進化した。通常こうした戦略には動物――鳥、魚、移動性の草食動物――が関わっており、種子をウンコに乗せて運ばせることが多い。つなり、動物とその排泄物をどう扱うかは、植物にも深く関わっているということだ」と述べています。
 第4章「動物にとって排泄物とは何か」では、「動物の排泄物が発する匂いは、動物の行動と生態学を研究しようという生物学者にとっても重要だ。糞の匂いを調べること(いわゆる野生生物の生態研究と保全のための糞中心的アプローチ)は、他のもっと侵襲的な手法による野生生物の食習慣に関する情報収集、たとえば発信器付きの首輪の装着と同じくらい有益で、倫理的により正当化しやすい」と述べています。
 そして、「アナウサギ、ノウサギ、ナキウサギも後腸発酵動物だが、栄養損失の問題を、自分の糞を食べることで解決している」と述べ、「ヒト以外の動物の糞食は、栄養と防衛の二つの役割を果たすものとして発達した。親は匂い、とりわけ生まれたばかりの仔の匂いが捕食者に嗅ぎつけられるのを避けようとする。たとえば雌シカは、子ジカが生まれてから一ヶ月間はその糞を食べ、捕食者を引き寄せないようにする」としています。
 また、「こうした動物の排泄行動からわかってくるのは、さまざまな種が生き残ったのは、それらが消化できる食物のタイプ、作り出す糞のタイプ、その糞を処理するために進化した行動が、その種だけでなくそれらが生きる生態系の維持に利益を与えるからだということだ」と述べています。
 第5章「病へ至る道――糞口経路」では、「公衆衛生上重要な二種類の寄生虫が、21世紀の糞問題の地理的広がりと、その生態学的プロセスとのかかわりを深く考える上で役に立つだろう」として、「ネコの腸内に棲み、有性生殖を行う」寄生虫・トキソプラズマについて、「トキソプラズマは子猫に抑鬱と食欲不振を引き起こすことがある。トキソプラズマに感染した動物の行動が変わることも証明されている。感染したネズミはネコをあまり怖がらなくなり、食べられやすくなって、感染のサイクルが完成する」と述べるとともに、第2の寄生虫、ジアルジアが、「排泄物が旅をする生態学的な網の目を、違った形で可視化してくれる」と述べています。
 また、「昆虫の糞も重大な影響を持つ」として、シャーガス病を媒介するサシガメについて、「夜、中南米のバラック街で、この虫は壁や天井の割れ目から這い出し、ハンモックのロープを伝い降りてくる。少量の麻酔薬を注入したあとで、サシガメは睡眠中の人の目頭から血を吸う。吸い終わると、糞をする。眠っている人が目を覚ます。目がかゆい。こすって糞を目の中にすり込み、寄生虫のクルーズトリパノソーマを血流に入れてしまう。何年も――たいてい何十年も――してから、そうした感染者の3分の1は心臓や腸の筋肉がぶよぶよになり、長患いの末に死ぬ」と述べています。
 第6章「ヘラクレスとトイレあれこれ」では、「さまざまな人間社会がいろいろな方法を使って排泄物に対処している。あるものは歴史の初めに、ある者はあとから現れ、私たちはそのすべてから学ぶことができる。『完璧』で万能の解決策など、これまでにも今でもあった試しはない。生態学と進化においては、背景と内容、生得的なものと習得的なもの、遺伝的及び社会生態学的状況の多様な相互関係がすべてだ」とした上で、「日本人も、人間の排泄物を農業に利用することにかけて、長い歴史と熟練の技を持っている。それは江戸のような都市ができる以前から存在するが、都市化が進むにつれて特に盛んになった」と述べ、「都市と市場が拡大し(1721年の江戸の人口は100万人だった)、集約的な稲作が増加するにつれ、屎尿を含めた肥料の価格は大幅に高騰した」としています。
 第7章「もう一つの暗黒物質(ダークマター)」では、「排泄物は、部分的に消化された食物に、バクテリアと体液を加えて丸めたものだ。ウンコが世界的に目に見えて増加しているということは、私たちが食料として利用した動植物が、脂肪とタンパク質と炭水化物がぐちゃぐちゃに混ざり合った、まずうまそうには見えないものへと変わっているということだ」と述べた上で、「生態学的な見方をすると、どの寄生虫も生物というだけでなく、養分、情報、エネルギーの束でもある。それぞれが、排泄物を食べることを通じて、排泄物が実体化したものだ」としています。
 第8章「排泄物のやっかいな複雑性とは何か」では、「ウンコと食料と生態学的持続可能性のやっかいな混乱の中心にあるのが、理論の問題だ。私たちは、ヘンリー・フォード流の直線的工業的な自然モデルを使って、その場その場の解決法を発達させてきた。この理論は工場や研究所ではうまく働くが、そうした範囲の外の世界をめちゃめちゃにしてしまう」と述べた上で、「どのように行動するかは、どこに目標を設定するかと同じくらい重要だ。一つの健康を目標に、複雑性を理論的基礎に、ポスト通常科学を科学と行動につなげる指針にすることで、この驚きに満ち、時に腹立たしいほど意地悪な惑星に住むことを話していくことができる」としています。
 本書は、地球上にあまねく存在するウンコをめぐる問題をまじめに考えた一冊です。


■ 個人的な視点から

 「食料」の問題になると眼の色が変わるの人が多いに対して、「ウンコ」の問題は二の次にされがちだったのではないかと想像しますが、ウンコが原因で蔓延する感染症や寄生虫も多く、またウンコからわかることも多いので、もう少し日の目を見させてあげても良いような気がします。


■ どんな人にオススメ?

・出ちゃった後のことはよく考えない人。


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