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2015年4月23日 (木)

不安の構造―リスクを管理する方法

■ 書籍情報

不安の構造―リスクを管理する方法   【不安の構造―リスクを管理する方法】(#2377)

  唐木 英明
  価格: ¥972 (税込)
  エネルギーフォーラム(2014/05)

 本書は、「始皇帝の時代から2000年以上が経った現在、私たちの生活は、始皇帝が夢にも見なかったほど豊かで便利で安全なものになっている」理由は、「科学技術の発達の成果であり、『リスク管理』技術の発達のおかげ」だとして、「豊かさを手に入れて、安全が確保されている現代の日本の社会で、人々はなぜ不安に陥るのか」を考えたものです。
 第1章「不安の時代」では、直感的判断の特徴として、
(1)「危険情報」を無視しないこと。
(2)「利益情報」も無視しないこと。
の2点を挙げた上で、「ヒューリスティックの判断には『確証バイアス』という特徴がある」として、「先入観に一致した情報を無意識に選別してこれを信じこみ、一致しない情報は無視する傾向」を指摘しています。
 第2章「科学技術の影」では、「多くの人が科学を信用しているのは、科学が自分の誤りを正す仕組みを持ているから」だと述べ、「検証、すなわち反論ができない仮説は科学として認められない」とした上で、科学の種類として、
(1)正しい科学
(2)未科学:まだ仮説の段階で検証を受けていない。
(3)間違い科学
(4)ニセ科学:科学でないものを科学に見せかけるという詐欺行為
の4種類を挙げています。
 第3章「リスク管理」では、「安全を守るためにリスクを減らす作業」である「リスク管理」について、
(1)リスク評価:何がハザードであるのかを明らかにし、そのハザードによる被害がどの程度か、そしてそのハザードに出会う確率がどの程度かを推定する。
(2)リスク管理:そのハザードに出会う確率を小さくする方策を決定する。
とした上で、「あるリスク管理策を実施すると、別のリスクが大きくなることがあるので、リスク管理には『リスク最適化』と呼ばれる総合的な観点が必須」だと述べています。
 そして、リスク管理の方法として、
(1)リスク保有:特別のリスク管理を行わないこと。
(2)リスク転移:保険への加入など。
(3)リスク回避:リスクのある行動を避ける。
(4)リスク最適化:費用と効果の計算をして、納得できる程度までリスクを減らして、費用を小さくする。
の4点を挙げています。
 また、リスク管理の方法として、
(1)ALAP(As Low As Practicable):リスクを実行可能な限り低く保つ「リスク回避」に近い考え方。
(2)ALARA(As Loaw As Reasonably Achievable):社会的、経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く押さえる「リスク最適化」に近い考え方。
の2点を挙げています。
 第4章「放射能と健康」では、メディアにおいて、「『リスク評価』と『リスク管理』の違いが認識されていない」として、事実は、科学者が行うリスク評価は一致していても、「リスク最適化に基づくリスク管理に対しては倫理的判断の違いなど多様な考え方があり、一致を見ていない」と述べています。
 そして、「大きな事故にもかかわらず食品の安全は守られたのだが、世の中に広がった農作物の『福島離れ』は止まらず、福島の農家は深刻な風評被害を受けている」と述べています。
 また、「『原爆の悲惨さ』は周知のことであり、これに関する学校教育も行われてきた。その一方で、自然界や日常生活の中で出会う放射線やそのリスクに関する科学的な教育は行われず、低線量放射線の影響に関する科学的な知識は与えられなかった。こうして多くの人の間に、『量を問わず放射線は恐ろしい』とい、いわゆる『放射能恐怖症』が広がった」と述べ、「多くの人が持つ『放射能は怖い』という先入観と、その背景にあるLNTモデルへの信仰に近い思い込みが低線量放射線の影響についての科学的な議論を妨げて、多くの議論は恐怖を前提にした感情論になっている」としています。
 第5章「BSE」では、「リスク評価とは、科学以外の要素の介入を拒絶すべき分野である。ここに『科学的根拠』ではなく、『一般の人々が持つ多様な価値観』を持ち込んでリスクを評価し、『消費者寄り』とか『事業者寄り』などの恣意的な評価結果を出したら、中立公正であるべきリスク評価の存在意義は失われることになる。一方、『多様な価値観』はリスク管理策の決定の際に考慮されるべきものである」と述べています。
 第6章「誤解の損害」では、「中国産冷凍ギョウザ事件は中国だから起こったと言う人がいたが、2013年末、アクリフーズ群馬工場で製造した冷凍食品から高濃度の農薬が検出されるという事件が発生した」ことで、「犯罪はどこの国でも起こりうることが改めて証明されたとともに、『食品テロ』の対策が必要であることを、これらの事件は示している」と述べています。
 また、「食品添加物の使用基準を野菜に当てはめると、多くの野菜の食用を禁止しなくてはならなくなる」が、「日本でもEUでも野菜が含む硝酸塩のリスクより野菜を摂取することの利益のほうが大きいとして、野菜の食用禁止は行っていない」として、「野菜が含む硝酸塩よりずっと少ない量がハムなどの食肉製品に入っているからといって、これを嫌うことや、『食品添加物の量はなるべく減らすべきだ』といった意見には、何の科学的な根拠もない」と述べています。
 第9章「リスクコミュニケーション」では、「リスクコミュニケーションが始まってから10年の間に、業界団体も消費者団体も、食品のリスク管理についての知識を持ち、国際的な立場から幅広い見方ができる人材の要請が進むことが期待されたのだが、それはあまり進んでいない」と述べています。
 そして、「放射能の恐怖を煽る人たちの多くは善意や正義感、市民の側に立とうとする価値観などに基づいてそのような活動をしているものと思われるのだが、そのような科学的知識に乏しく、思い込みが激しい人の目には、科学的に正しい情報を発信する専門家が『放射能による健康影響を低く見せようとしている』と映るのであろう」と述べ、「人間の直感的判断の特徴として、信頼が大きな根拠になるのだが、科学的論争で勝てないときには、相手の人格を批判して『不審な人物』と印象づけて、信頼を失わせようとするレッテル貼り作戦は、多くの場面で、ごく一般的に行われている」としています。
 さらに、「意見の違いを調整するための話し合いができない相手がいる」として、「それは、商売のために誤解を振りまく人たち、自分の価値観や組織の拡大のために誤解を振りまく人たちだ。本を書き、講演をすることで誤解を振りまき、賛同者を集め、品物を売り、寄付を集めて大きな利益を得ている人たちだ。このような人たちとは、いくら話し合っても妥協点はない。始皇帝ならこのようなときに焚書坑儒を実行するかもしれないが、現代の社会ではそれは意味がない」と述べています。
 本書は、リスクとの向き合い方を教えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 確かにリスクと正しく向き合うことは必要ではありますが、誰にでもできることではないように思います。


■ どんな人にオススメ?

・リスクと正しく向き合いたい人。


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