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2015年4月13日 (月)

科学はなぜ誤解されるのか: わかりにくさの理由を探る

■ 書籍情報

科学はなぜ誤解されるのか: わかりにくさの理由を探る   【科学はなぜ誤解されるのか: わかりにくさの理由を探る】(#2367)

  垂水 雄二
  価格: ¥821 (税込)
  平凡社(2014/5/16)

 本書は、「『進化論』と『利己的な遺伝子』を例にとって、科学的概念をめぐる誤解がどのようにして生まれるか、その背景を明らかにすることで、科学コミュニケーション論への一つのアプローチを示して」いるものです。
 著者は、「学術的な用語や概念の誤った理解や使われ方は、生物学に限らず、現代のあらゆる自然科学にみられる現象である」と述べ、その原因として、
(1)学術用語は新しく造語される場合でも、日常語に限定を付けて転用されることが多く、読者がそれを一般的な意味として受け取れば、そこに誤解が生じる。
(2)読者は結局のところ、与えられた科学的概念や法則のうちで自分に都合のいい部分、都合のいい解釈だけを採用する傾向を持つ。
の2点を挙げています。
 第1章「科学的コミュニケーションを損なう要因」では、「メディアが誤るいくつかのパターン」として、
(1)記者が自分の偏見や思想のために、科学的に許容される以上の意味を読み取って誇張するというパターン。
(2)発表された論文をよく内容がわからないままに過大評価する。
の2点を挙げています。
第2章「騙されやすさは人間の本質――知覚の落とし穴」では、「多くの人は自分が体験したことが事実だと信じていて、科学的な説明によって否定されると、世の中には科学で説明できないことがあるのだと強弁する」が、「科学的に説明可能なことをわざわざ非科学的な理論で説明する必要はない」とした上で、「敵や餌の存在を見つけることが主目的であるため、生物の感覚にはいくつかの特性がある」として、
(1)補正能力:断片情報から全体情報を得たり、環境データを考慮に入れて調整できる。
(2)感覚順応:感覚情報は外界条件の絶対値を告げるよりもむしろ、変化の大きさすなわち変化の加速度を告げる方が重要である。
の2点を挙げています。
 第3章「複雑な現象の理解は簡単ではない」では、「Aという出来事のあとにB。という出来事が一定の割合で起これば、A」とB。のあいだには相関(先後)関係があるといえるが、この相関関係を因果関係とみなして神経回路に組み込む」条件反射について、「進化論的にいえば、この誤謬は生き残るための便法として人間の脳がこしらえ上げたもので、どうやらそういう回路が脳に組み込まれているらしい」と述べています。
 そして、「統計は複雑な確率的事象を分析する上で重要な道具だが、時には直感に反する結論を導くこともある」として、「数字が出てくると、それだけで科学的だと思い込んで信じてしまう人の心の弱みにつけこむ」ことも簡単だと述べた上で、対照実験と同じような考え方の問題として、「背景(バックグラウンド)値の無視にも見られる」と述べ、「2012年の8月に琉球大学の大瀧准教授らが、福島付近のヤマトシジミというチョウに大量の異常(奇形)が見られ、それが放射能の影響ではないかという論文を発表して大きな話題を呼んだ」ことについて、「この論文そのものは、科学論文として重大な欠陥がある」として、著者本人が、2年前に「寒さが原因となる異常が多いこと」について論文を書いていることについて、「北に行くほど変異率が高くなるはずだから、『寒さではなく放射能が原因』という結論を導くのであれば、北方のチョウとの比較をしなければ、対照の意味をなさない。ゆえに結論はともかく論文としては信頼性が乏しいと判定せざるをえない」と指摘しています。
 著者は、「統計は見えないものをわからせてくれる強力な科学的武器ではある反面、数字を出すことによって、さしたる根拠のない推測を、まるで科学的な裏付けのある心理のごとく思わせる力がある」と述べています。
 第4章「誤解されるダーウィン――進化論再入門」では、ダーウィンが『種の起源』を執筆した動機について、「当時の知識人の圧倒的多数が信じていた、『すべての種を髪が一つ一つ別々に創造された』という個別創造説(special creation theory、直訳して特殊創造説とも呼ばれる)に対して、異議申立てをする」ことだったと述べています。
 そして、「種が変化する、進化するという考えは彼の時代に受け入れられたが、肝心の自然淘汰の概念は歪曲された形でしか評価されなかった」として、「環境により適応したものがより多くの子孫を残すという自然淘汰の穏やかな作用は、血まみれの弱肉強食の闘いへと姿を変えてしまった。そして、強いものが弱いものを打ち負かしていいという資本主義・植民地主義擁護の論理へと転換していく」と述べ、ダーウィンの進化論と社会ダーウィン主義との根本的な違いとして、「後者には自然淘汰による形質の分岐、種分化という視点が全く欠落していること」を指摘しています。
 また、「ダーウィン革命」の実態について、
(1)「種が変わる」という認識。
(2)すべての生物が共通の祖先を持つという認識は、人間を自然界における特別な位置から引きずり落とし、人間の祖先は何かという問いを引き起こした。
(3)弱肉強食・最適者生存という矮小化された自然淘汰の原理と、進化は進歩と同義で歴史的な必然であるという認識が、帝国主義や植民地主義、あるいは人種差別や優生学にお墨付きを与えたこと。
の3点を挙げています。
 第5章「『利己的な遺伝子』をめぐる誤解」では、ドーキンスの『利己的な遺伝子』に対する批判として、
(1)「利己的」という言葉の使い方。
(2)生物個体ではなく遺伝子を進化の単位とすること。
の2点を挙げ、「『利己的な』遺伝子という誤解を招きやすい擬人的な表現をあえて使わなければならなかった理由」として、「『遺伝子が利己的だ』と言っているわけではなく、『利己的なのは(個体ではなく)遺伝子なのだ』と言っている」と述べています。
 あとがきでは、「科学的な情報を一般の読者に伝える上で問題になるのは、直感的に理解し難いことをどうわかりやすく伝えるかという点」だとして、「科学啓蒙書の翻訳を主たる仕事」とする中で、「本のできは、なによりもまず原著の質に左右される。先端的な学問の内容をわかりやすく、しかも面白く読ませるのは原著者の能力である」と述べています。
 本書は、科学が理解されにくい原因を整理して論じた一冊です。


■ 個人的な視点から

 多くの人たちが「理科」や「物理」などを学校で学んだ社会では、皆が自分では「科学」のことを解っていると思っていることが面倒なのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・科学的に物事を考え伝えたい人。


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