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2015年5月 1日 (金)

パラサイト・レックス―生命進化のカギは寄生生物が握っていた

■ 書籍情報

パラサイト・レックス―生命進化のカギは寄生生物が握っていた   【パラサイト・レックス―生命進化のカギは寄生生物が握っていた】(#2385)

  カール ジンマー (著), 長野 敬 (翻訳)
  価格: ¥ (税込)
  光文社(2001/03)

 本書は、「自由生活する種に対して4対1の比率で優勢」にある寄生生物について、「その内部世界に対して遂げている性向な適応」を垣間見せてくれるものです。
 第1章「自然界の犯罪者たち」では、イギリスの動物学者レー・ランケスターが、「寄生生物のうちに、人類にとっての重大な警告を見出した」として、「寄生生物が退化するのは、『ちょうど活動的で健康な人物が突然財産をもつようになったとき退化(堕落)することがあるのと同じで、あるいはローマが古代世界の富をもったとき退化したのと同じだ』」と指摘していると述べた上で、「ランケスターからロレンツまで、科学者は勘違いをしてきた。寄生生物は複雑で高度に適応を遂げた生物であり、生命の物語の中心を占めるのだ。もし生命を研究する科学者たち――動物学者、免疫学者、数理生物学者、生態学者――を隔てていたあのような高い塀がなかったならば、寄生生物はもっと早くに、忌み嫌うべきものではない、あるいは少なくとも単に忌み嫌うだけのものではないことが認められたのかもしれない」と述べています。
 第2章「未知の大陸」では、「寄生生物は外界を歪めたような別個の世界に住んでいて、この世界にはそれ自身の航行法や、食物探しや家作りの規則がある」とした上で、「寄生生物にとっては宿主が生きた孤島である。大型の宿主は小さい宿主よりも多数の規制生物の種を宿している傾向がある」が、「島として扱うには、宿主には特に違うところがある。寄生生物は宿主の体内にものすごく多数の生態学的なニチェ(住み場所)を見つけることができる。体内には、寄生生物が適応を遂げることのできる異なる場所が非常にたくさんあるからだ」と述べています。
 第3章「三十年戦争」では、「彼らは免疫系の手を逃れ、はぐらかし、使い果たさせ、さらに免疫系を支配してその信号を弱めた状態、あるいは必要とあれば強めた状態にすることさえできるのだ。こうした寄生虫の巧妙さのしるしの一つは、彼らに対してはいまだにワクチンが得られていないという事実からも窺われる」と述べています.
 第4章「精密な恐怖」では、レー・ランケスターが「あらゆる後退と怠惰のシンボル」に位置づけたフクロムシが、「寄生虫がどれほどまでの洗練に達することができるかという象徴であることが、いまではわかっている」と述べ、フクロムシが寄生することで、「カニは新しい種類の生物に姿を変え始める。寄生生物に奉仕するために生きてゆくようになるのだ。かにはもはやフクロムシの成長の邪魔になるようなことはしない。脱皮と成長もやめる。そうしたことは、寄生虫のためのエネルギーをよそに振り向けることになってしまうからだ」と述べ、「彼らや宿主を支配し、事実上その脳となり、相手を新しい生物に変えてしまう。まるで宿主はただの操り人形で、寄生虫がそれを内部から操る手であるかのようだ」としています。
 そして、「脳などのような致命的な器官へのエネルギー供給を断ってしまう寄生者は、愚か者ということになるだろう」として、「寄生者としては、それほど致命的でないものを狙う。寄生蜂が貯蔵脂肪をかすめ取ると、宿主は性器官の発達が止まってしまう」と述べ、「去勢という戦略は、色んな種類の多くの寄生生物が別個に探り当てている」として、「宿主は卵や精巣を作ったり、配偶相手を見つけたり、子を育てたりすることに対してエネルギーを浪費できなくなって、概して言えばゾンビになる。死んでいない死者として主人に仕えるのだ」と述べています。
 また、「寄生生物は、宿主が神経伝達物質やホルモンを使う用法をマスターしているのだ。実際そうであることに、寄生生物学者はかなり確信をもっている」と述べた上で、「我々は相変わらず、他の生物の上に立つものという建前で振舞っているが、しかし自分もまた、天使によってでなく科学的な信号によって調和を保ちながら作用しあっている細胞の集まりであることを知っている。もしある生物――寄生虫のようなもの――がこれらの信号を支配できれば、その生物を我々は支配できるのだ」と述べています。
 第5章「内への偉大な一歩」では、我々の祖先にとって、「当時彼らが食べたうちでウシとかブタにもっとも近かったのは、ライオンが殺して食い荒らした野生獣の死骸だろう」として、「すなわち人間のサナダムシと一番近縁のサナダムシの種は、ライオンとハイエナを最終宿主としているのだ」と述べ、「ライオンやヒョウの後をつけ回し、彼らの殺した死体を漁り、彼らのサナダムシも拾い上げてしまった」としています。
 そして、「数十億年にわたる寄生生物の歴史はようやく明らかになり始めたばかりだが、すでにこの歴史を導いてゆく力は『退化』などでないことが明らかになった。寄生生物はその進化の過程で、たしかに一部の形質を失ったかもしれないが、それをいうなら我々も自分の歴史の中で尾、毛皮、殻の固い卵を失っている」と述べた上で、「寄生生物は、宿主が遺伝子を伝えられないようにすることによって、強い自然選択を作り出している」として、「寄生生物は、多分生命そのもののあけぼの以来、ずっと進化を駆動する力だったのだろう」と述べています。
 また、「寄生生物が宿主をいっそう多様化に押しやっていることが、いま明らかになりつつある。寄生生物はひとつの種全体を、同じ方法で攻撃するものではない。特定地域の寄生生物はそこの宿主の集団に対して特殊化し、宿主遺伝子の局地的なセットに適応することができる。宿主もそれに反応して進化するが――ただし』種全体としてでなく、その地域の宿主としてである」と述べています。
 第7章「二本足の宿主」では、「アレルギーには何も役に立つ目的が見つからないので、免疫学者はIgEを、免疫系の珍しい欠陥の一つと見るほかはなかった」が、IgEは、腸内寄生虫や住血吸虫と戦う上で重要なことがわかってきたと述べています。
 そして、「何億年にわたって、寄生生物は我々の祖先生物の進化を形作ってきた。そして過去一万年の間も、止まるところがなかった」と述べてます。
 また、「寄生生物の根絶は、新しい病気を作り出すことさえある」として、腸内寄生虫が根絶されたために、大腸炎やクローン病が広がった可能性について述べています。
 第8章「寄生虫世界に生きる」では、「寄生虫であることは、何も恥ずべきことではない。我々もこの惑星のゆりかごの時代から、由緒正しい同業仲間に加わっていて、ここでの生命形態としてもっとも成功した者なのだ。しかし我々は、寄生虫流儀の生き方ではぎこちないところがある。寄生虫は宿主を非常な精密さをもって切り替え、特別の目的に向けて宿主を変化させてしまう」が、「彼ら寄生虫は、必要とするだけの害しか与えないことの専門家であり」、「もし我々人類が寄生虫として成功しようと思うならば、師に見習う必要があるだろう」と述べています。
 本書は、我々の「同業者」の活躍ぶりをうかがい知ることができる一冊です。


■ 個人的な視点から

 かなり古い本ではありますが、寄生生物の話は驚くべきことばかりです。


■ どんな人にオススメ?

・われわれの中の「同業者」の姿を知りたい人。


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