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2015年6月19日 (金)

危機と雇用――災害の労働経済学

■ 書籍情報

危機と雇用――災害の労働経済学   【危機と雇用――災害の労働経済学】(#2434)

  玄田 有史
  価格: ¥2,808 (税込)
  岩波書店(2015/2/26)

 本書は、「『仕事』という側面から震災のもたらした影響について検証し、その記録を地道に残していく」ことで、「生活の根幹にかかわる労働問題としての戦墓未曾有の大災害である東日本大震災を振り返ることで、災害が人々にもたらした困難や、そこから立ち上がろうとする人々の営みを、これまでの報告や記録にはなかった視点で新たに描き出」すことを目指したものです。
 第1章「震災前夜」では、「リーマン・ショックの経験が、その2年6ヶ月後に起こる東日本大震災への対応に、少なからず影響を及ぼしていく」として、「震災前から確実に起こっていた産業構造の転換に対し、東日本大震災はそれまでとまったく異なる影響を与えるることになっていく」と述べた上で、「リーマン・ショックに対処するために行ってきた緊急雇用対策は、後の震災に伴う雇用対策に少なからず影響を及ぼしてきた」として、「緊急雇用創出事業」と「基金訓練」について解説しています。
 第2章「震災と仕事」では、「震災の影響で新たに仕事を求めることとなった労働者の複雑な実情への理解」が欠かせないとした上で、「東日本大震災によって、日本全体では570.1万人の有業者(ふだん仕事をしている人)が、仕事に対する何らかの被害を受けてきた」として、この内、「225.7万人が離職もしくは休職によって震災後に働く機会を失った」と述べています。
 そして、「震災による仕事への影響が総合的に最も大きかったのは、製造業だった」としながらも、
「生き残った日本の製造業は、独自の技術力向上を一つの背景としながら危機対応力を、繰り返す自然災害の中で年月を重ねつつ磨いてきた可能性は大きい」と述べています。
 また、「震災などの大きなショックにさらされたとしても、正社員の雇用がなぜ守られるか」について、「企業も、労働者も、正社員という存在には、それまで教育や訓練のための時間や金銭など、多くの投資をしてきた」ため、「たくさんの資本を投下した以上、十分な利益を回収するまでは、その正社員という存在や立場を手放そうとしないのは、企業と労働者の双方にとって、至って合理的な行動なのだ」と述べています。
 さらに、「若年層に関しては、離職や休職に追い込まれることで、働きながら経験や知識を積み増す機会が奪われただけでなく、その他の影響も大きい」として、労働時間の減少や賃金の低下を挙げ、「若者が震災によってニート化する傾向が強まっていることは、これまで余り知られてこなかった事実である」と述べています。
 この他、「震災によって避難や転居を強いられた人々からは、個人が保有する住居や土地などを利用する機会が制限されただけでなく、仕事にとって重要な地域の社会的共通資本も奪われたのだ。それまで地域で培ってきた社会的共通資本を利用できなくなることは、その人の経済的価値を生み出す力を削ぐことになり、結果として仕事に就くことが困難な状況を生んでいる」と述べています。
 第3章「震災と雇用対策」では、今回の震災直後に緊急的な対応が求められた大きな課題の一つ」として、「津波や地震などによる直接被害のため、休業や離職を余儀なくされた人々への対応」を仰げ、「激甚災害の指定に伴う雇用保険の特例措置に基づき、賃金を受け取ることができない震災被害者に対する失業手当の特例支給がなされることとなった」と述べています。
 また、「今回の震災でも、比較的早くから雇用情勢に全般的な改善が見られた背景の一つとして、危機に迅速対応した雇用創出基金事業の役割は大きかった」と述べるとともに、「サプライチェーンの寸断」問題に対して、「被災した中小企業を『グループ』として支援する『中小企業等グループによる施設・設備復旧整備補助事業』(通称、グループ補助金)を今回はじめて本格化させた」と述べています。
 そして、「雇用促進税制の背景にあったのは、雇用を創出しているのは実際には一握りの企業であり、それらの企業を集中的に税制面で支援することが経済全体の雇用拡大により効果的であるという発想だった」と述べています。
 第4章「震災と企業」では、「経営者の自信の裏打ちとなっているもの」とは、「その企業に蓄積された、固有の実力なのだ」として、「その実力の一つとは、いうまでもなく企業独自の高い技術力である」と述べています。
 第5章「震災と希望」では、「震災が人々の意識や考え方にどのような影響をもたらしたのかを考察」するとした上で、キーワードとして「希望」を挙げ、「希望の喪失という現象は、若者のみならず、統計的にも確かに観察される日本人全体を覆う意識だった」と述べています。
 そして、「仕事に関する希望が、日本人にとって大きく衰退しつつある」とした上で、「このような希望が仕事から家庭へと移行しつつある背景にあるのは、必ずしも東日本大震災の影響だけではないのかもしれない」としつつも、「東日本大震災の経験が、日本人の勤労観、さらには家族観の見直しを迫ったと考えることも、やはり自然である」と述べています。
 また、「震災をきっかけに人と人との間の親密なつながりを意味する『絆』の大切さが、くりかえし強調されてきた」が、「実際に起こっていたのは、絆を結べるような友人や知人はごく限られているという、多くの人々にとって相反する現実だった」と述べています。
 終章「危機に備えて」では、「震災前のリーマン・ショックへの緊急対応による下地があった他、過去の困難から柔軟な対応力を培ってきた製造業など、震災に対しては一定のレジリアンス(回復力)を発揮した面がある一方、さまざまな仕事上の困難に翻弄された人々も少なくなかった」として、「震災前から、仕事について比較的不安定な立場に置かれていた人々ほど、震災によって仕事を失うこともあれば、再就職の困難を強いられることも多かったのだ」と述べています。
 本書は、震災と仕事とをもう一度見つめなおすきっかけを与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 究極の非日常である災害を前にしてしまうと、普段とは価値判断の基準が変わってしまう人がいますが、そうは言っても生活のことを考えると、やはり「どうやって食べていくか」は外せない重要課題です。


■ どんな人にオススメ?

・非日常がいつまでも続かないと思う人。


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