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2015年7月18日 (土)

幹細胞と再生医療

■ 書籍情報

幹細胞と再生医療   【幹細胞と再生医療】(#2463)

  中辻 憲夫
  価格: ¥1,080 (税込)
  丸善出版(2015/6/26)

 本書は、STAP細胞の事件を契機に、多能性幹細胞について、「広く性格な理解を広めたい」と言う動機で執筆された入門書です。
 第1章「多能性幹細胞の研究の歴史」では、英国ケンブリッジ大学のマーティン・エバンス博士が、1981年に、「マウスの初期胚からEC細胞に似ているものの染色体は正常であり、がん化しておらず、長期増殖能と多分可能を持つ細胞株を培養器の中で樹立したことに成功」し、後に「ES細胞(Embyonic Stem Cell Line)」と名づけられたと述べています。
 そして、「現在に至るまで、ヒトES細胞とiPS細胞は互いに比較研究しながら、目的に応じて使い分けるのが望ましいというのが、世界の責任ある研究者のコンセンサスとなっている」と述べています。
 第2章「ヒトの発生過程」では、「細胞の形や機能は細胞分化によって多様に変化するが、各々の細胞核が持つゲノム(遺伝情報のセット)は保たれる」とした上で、「このとき重要なのは、DNAメチル化などのDNA分子への化学修飾によって、塩基配列は同じでもゲノムは異なる働き方をしており、細胞分裂を続けてもDNA、化学修飾とそれによる働き方のパターンが保存されて、細胞分裂の後の細胞に受け継がれるということである」と述べています。
 第3章「幹細胞とはどのような細胞か――組織幹細胞の例」では、「幹細胞という言葉は、英語のStem Cellと対応しているが、樹の幹が伸びながら、横に枝が別れるように、幹細胞は細胞分裂で自己複製して幹細胞自体の数を維持しながら、複数種類の分化した細胞を作り出していく機能を果たす細胞である」と述べています。
 第4章「多能性幹細胞とはどのような細胞か」では、「多能性幹細胞株の特徴は、がん化などを起こさない正常な細胞のままで無制限に細胞増殖を続けることと、ほぼすべての臓器組織の細胞に分化できること」と述べています。
 第5章「ES細胞やiPS細胞に関わる生命倫理と社会的対応」では、「ヒト受精卵を使った医学研究や治療と創業への応用が、どのような条件下では許されるべきか」について、「不妊治療の目的で作られたものの、廃棄が決定された余剰胚について、その無償提供をインフォームドコンセントの原則に従って打診し、余剰胚提供と利用のプロセスを倫理委員会で議論して承認を受けて行う」として、「世界各国ですでに結論は下されて」いるにもかかわらず、「日本特有の問題は、この基本方針が議論のうえ了解されて政府指針が作られたはずなのに、なぜかいまだに、この基本方針に従って樹立されたヒトES細胞株の仕様に関しても倫理問題を強調する人たちが多いこと」ことについて、「国民の多くに、非常に偏った理解が刷り込まれてしまった」ことに加え、「受精卵を使わずに体細胞の初期化により多能性幹細胞を作る方法が、山中伸弥博士によって確立されたために、日本としてはこのiPS細胞の研究応用を進行しようという動きが極端に高まったこと」を原因として挙げています。
 第6章「多能性幹細胞の可能性とリスク」では、多能性幹細胞株が持つリスクとして、
(1)長期間培養し続けたES細胞株では、ある頻度でゲノム変異は起きて蓄積すること。
(2)染色体にあるDNAの塩基配列が同じであっても、DNAのなどの化学装飾によって、遺伝子の働き方が異なり、そのパターンが細胞分裂の前後、すなわち細胞増殖の後でも引き継がれる現象である「エピゲノム」の変動または異常。
の2点を挙げています。
 第7章「再生医療への応用と世界の状況」では、「さまざまな難病治療のための細胞リソースとして多能性幹細胞に期待が寄せられ、世界中で研究開発が進んでいる」とのべています。
 第8章「新薬開発への応用」では、「新薬開発の難しさを一部とはいえ大幅に改善できるのが、多能性幹細胞の活用」だとして、「新薬開発には、通常は数十万種類の化合物ライブラリーから、効果のありそうな化合物を探し当てる(スクリーニングする)システム、いわゆるハイスループットスクリーニングを行う」が、「このためには化合物を与えて効果を見るための、低コストで均質かつ大量に準備できる疾患モデル細胞が必要になる」として、「ヒトES細胞の出現、患者のゲノムをもつiPS細胞の出現、さらにスクリーニング目的に合致して蛍光などのシグナルを出すレポーター遺伝子を組み込んだデザイナー細胞などを組み合わせられるようになり、可能性が広がった」と述べています。
 第11章「まとめ」では、「ヒト多能性幹細胞を用いた再生医療における細胞治療への応用には、多能性幹細胞があわせもつ無限増殖能と多分可能が大きな可能性の源であり、これらは他種類の幹細胞では持ち得ない特別の能力である。両方の能力によって、均一な性質を持つた種類の有用細胞を大量に生産することが可能である」と述べています。
 そして、「幹細胞の基礎研究への興味から研究を行うことはもちろん意義があるのだが、やはり全体として目指すべきは、どのようにして、多数の患者に手が届くコストでの再生医療を実現するかであり、そのために必要な研究開発を主要な目標とすべきこと」だと述べています。
 本書は、多能性幹細胞の可能性と現状を解説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 小保方さんの騒動でその名前自体は聞いたことがある人はいるのかもしれませんが、実際にどんなものか知ってみたい気もしますよね。


■ どんな人にオススメ?

・STAP細胞が気になった人。


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