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2015年7月12日 (日)

ネットワーク科学

■ 書籍情報

ネットワーク科学   【ネットワーク科学】(#2457)

  Guido Caldarelli(著) 増田 直紀 (監修, 翻訳), 高口 太朗 (翻訳)
  価格: ¥1,080 (税込)
  丸善出版(2014/4/25)

 本書は、世の中に数多く存在するネットワークの、「つながり方に隠された共通の特徴」を生み出す仕組みや、ネットワーク上のダイナミクスを決める重要な要因があるのではないか、という疑問を出発点として、ネットーワークのつながり方について研究する「ネットワーク科学」の基本的な研究成果を、豊富な具体例をもとに簡潔に紹介するものです。
 第1章「世界をネットワークという視点でとらえる」では、「多数の異なる要素(個人、企業、空港、生物種、発電所、コンピュータ、遺伝子など)の集団」が、「多様な相互作用のなす無秩序なパターンを介してつながっている」として、「これらすべての現象の背後にはネットワーク構造」があり、「多くの場合に、この隠されたネットワークこそが減少を理解するための鍵」だと述べています。
 そして、ネットワークという見方をすることで、「一見関係のなさそうな要素どうしを結びつける全体的な構造を見抜くことができる」とともに、「外部からの制御なしに成長するシステムが、自発的にそsの内部に秩序的な構造を作り出すことができる」という重要な特性をも明らかにすると述べています。
 また、「複雑で、創発的で、自己組織的なシステムの研究(近代的な意味での複雑性の科学と呼ばれる)において、ネットワークは統一的な数学的枠組みとしてますます重要になっている」と述べています。
 第2章「ネットワークは有益な分析方法である」では、「個々の要素の詳細を無視してつながりの構造に注目するネットワーク科学の基本的手法は、さまざまな対象に応用できる」として、生態系に始まり、「インターネットから人間集団までさまざまな対象に応用される」と述べています。
 また、「多くの異なる要素がさまざまな形で相互作用する現象を取り扱う方法」として、
(1)基本となる構成要素とそれらの間の相互作用を特定する方法
(2)たくさんある構成要素を、性質が同じ物どうしで少数のグループにまとめる方法
の2点を挙げた上で、「ネットワークを用いる方法は、これら2つの方法に足りない点を補おうとするものだ」として、「ネットワークを用いる方法は、個々の要素に注目する方法と大きな集団に注目する方法との間に位置し、両者をつなぐものである」と述べています。
 そして、ネットワーク異論を用いることで、「込み入った関係性も枝に織り込むことができる」として、「枝に方向を与えると、得られる構造は有向ネットワークとなり、枝は矢印で表される。有向ネットワークの頂点には入次数と出次数があり、それぞれ頂点に入る枝と出る枝の数を表す」と述べています。
 第3章「ネットワークで構成された世界」では、「生命は階層的に重なった複数のネットワークがもたらす結果であり、単に遺伝子の配列のみによって完全に決まるわけではない」として、遺伝学に、エピゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなど、「それらの階層を研究する分野」が加わった研究分野の発展を「オミックス革命」と呼ばれ、「ネットワークの考えかたは、オミックス革命の革新に位置する」と述べています。
 また、「細胞は小さなサイバー空間であり、そこでは遺伝子制御ネットワーク、タンパク質相互作用ネットワーク、代謝ネットワークが互いに重なっている」ことから、「ゲノム、プロテオーム、メタボロームという概念を、インタラクトームという包括的な概念として融合することを提案した科学者もいた」と述べています。
 第4章「連結性と近接性」では、「自然界や人間関係のネットワークは、ばらばらの部分に分断されているかもしれない」として、「そのような分断した集団、言い換えれば分離した連結成分は、規模の小さい少数派」であり、「すべてのネットワークにおいて、ほとんどの構成要素は巨大連結成分と呼ばれる大きなひとかたまりの構造に含まれる」と述べています。
 そして、「どの2頂点間の(ネットワーク上の最短経路でたどるのに必要な枝の本数によって図る)距離も非常に小さいという事実」によってなりたつ「スモールワールド性」について、「その生じる理由が何であろうと、調べる対照がネットワーク構造を保つ場合には考慮すべき非常に重要な性質」であり、「ネットワークの考えかたによって、それらの対象の性質について革新をとらえる見通しが得られる」として、
(1)ネットワークを構成するそれぞれの要素は一つにつながった大きな世界の一部であり、ほとんどすべての頂点どうしを結ぶ経路が存在する。
(2)そのような経路はきわめて短い。
の2点を挙げています。
 第5章「スーパーコネクター」では、株式仲買人の社会ネットワークや航空網に限らず、「多くのシステムをネットワークとして表すと、同様に非常に多くのつながりを持つ頂点、言い換えればスーパーコネクターが存在する」として、「多くのネットワークにおいて、『勝者総取り』の傾向が見られる」と述べています。
 そして、「平均値は、その町の社会ネットワークが見つかどうかという問題についてなら一つの見当を与える」が、「それぞれの人の知人数について適切な予測をする手がかりにはならない」として、「この平均値が役に立たないという性質」を、「特徴的スケールをもたない」という意味で、「スケールフリー性またはスケール不変性」と呼ぶと述べています。
 また、「社会ネットワークにおける頂点ごとのつながり方の分布、すなわちネットワークの次数分布」は、「長いまたは重い裾野を持ち」、「数学の言葉で言えば、次数分布の形はべき乗則と呼ばれる曲線でうまく記述される」と述べています。
 さらに、不均一性と不均一なネットワークに共通する重要な性質として、「いずれも複雑でほぼ無計画な過程の結果」であるコトを挙げ、「秩序は、トップダウンの計画によって課されたわけではなく、各々の構成要素の振る舞いによって生み出されるものだ。様々な分野のネットワークにおいて不均一性が見られるということは、それらのネットワークの多くが形作られる際に共通の仕組みが働いている可能性を示唆する。ネットワークの自己組織的な秩序が現れる理由を理解することは、ネットワーク科学の重要な挑戦の一つである」と述べています。
 第6章「ネットワークの創発」では、バラバシとアルバートが提案した、「ネットワークの成長を表す一つの数学的モデル」について、「新たに加わった頂点は、既存の頂点のうち、すでに大きい次数をもつ頂点と枝を結ぶことを好む」とする「優先的選択」と呼ばれるルールであると述べ、「バラバシ=アルバート・モデルは、トップダウンの設計図を与えることなしに、ボトムアップな成長の仕組みによってネットワークの不均一性が生み出されることを示した」と述べています。
 そして、「優先的選択は、将来の発展が過去の状態に依存するような多くの自然現象や社会現象において働く仕組みのネットワーク版だ」として、「多くのネットワークにおいて優先的選択が働いていそうだと考えられる」理由として、
(1)大きい次数をもつ頂点は新たな頂点によって見つけられやすい場合がある。
(2)つながり自体が新たなつながりを引きつけること。
(3)ハブとつながると他の多くの頂点へ簡単に到達できること。
などを挙げています。
 また、「優先的選択はネットワークができるときに働く唯一の仕組みではなくすべての不均一なネットワークが優先的選択によって生じるわけではない」が、「単純で局所的な頂点の振る舞いが、相互作用を通じて繰り返され、複雑なネットワーク構造を生じさせうる」と述べています。
 第7章「ネットワークをもっと深く調べる」では、15世紀にメディチ家を率いてフィレンツエを手中に収めたコジモ・デ・メディチが、「めったに公の場で語らなかったし、ほとんどいかなる活動にも公然と関わらなかった」にもかかわらず、「周囲に強力な派閥を築くこと」ができた理由として、「多くの主要な家筋のなすネットワークにおいて、コジモの一族が中心に位置していたこと」とともに、「メディチ家によるつながりがなかったとしたら、それらの家筋どうしは関係が弱かったか、あるいは互いに敵対さえしていた」コトを挙げ、「メディチ家を中心にすえたネットワーク」は、「中心に位置する頂点(エゴと呼ぶ)に隣接する頂点と、隣接する頂点間の枝からなるネットワーク」である「エゴ・ネットワークの一例」だと述べています。
 そして、「調べる対象をネットワークとして表現することはかなりの単純化ではあるが、それでも多くの意義ある特徴をとらえることができる。ネットワークをじっくりと観察することで多くの情報が得られ、より複雑な分析を行うとより詳細な特徴が見えてくる」と述べています。
 第8章「ネットワークを襲う大災難」では、「一般にネットワークは、大規模かつ突発的な驚くべきダイナミクスの舞台となる」として、「ネットワークは『大災難』が起こるための理想的な環境に思える」と述べた上で、「故障に対して耐えていたネットワークが突如として崩壊する可能性があるという事実は、我々に警鐘を鳴らす」として、「生態系で言えば、ある頻度での大量絶滅は避けられないことを示唆する」と述べています。
 第9章「世の中はすべてネットワーク?」では、「ネットワーク科学を用いると、科学全体を見渡す展望がひらけ、さまざまな現象の間に存在する意外な類似性が解明されると期待される。そして、ネットワークという概念そのものにも、最先端の教養的魅力がある」が、「ネットワーク科学の重要な限界の一つ」として、「大規模なデータが不足していること」を挙げています。
 本書は、ネットワーク科学の可能性とその限界を教えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 ネットワーク科学についてはすでに幾つかの入門書が出ていますが、このシリーズは読みやすくてお薦めです。


■ どんな人にオススメ?

・ネットワーク科学に興味がある人。


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