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2015年7月25日 (土)

近代医学の先駆者――ハンターとジェンナー

■ 書籍情報

近代医学の先駆者――ハンターとジェンナー   【近代医学の先駆者――ハンターとジェンナー】(#2470)

  山内 一也
  価格: ¥2,052 (税込)
  岩波書店(2015/1/21)

 本書は、牛痘種痘を開発したハンターとジェンナーを中心に、天然痘根絶までの歴史をまとめたものです。
 第1章「近代医学以前」では、「天然痘は人類史上、最大の被害をもたらした感染症」だとして、「20世紀だけで3億人から5億人が天然痘で死亡した」と述べています。
 そして、「天然痘患者の膿やかさぶたを摂取して天然痘に人為的にかからせる」人痘種痘について、インドと中国が起源である可能性があるとしたうえで、1718年に、トルコ駐在の英国大使の妻メアリー・モンタギューが、6歳の息子に人痘種痘を受けさせたと述べています。
 第2章「ドリトル先生の時代」では、「ドリトル先生」のモデルとされる解剖医、外科医、ナチュラリストのハンターについて、「ハンターの動物との関り合いにヒントを得てドクター・ジョン・ドリトルの着想は生まれたと言われている」と述べたうえで、「ハンターは、2世紀のギリシアのガレノスの理論に基づく中世のままの方法を踏襲していた外科手術を、豊富な人体解剖の経験を生かして、詳しい観察と実験に基づく科学的なものに改良した」ことから、「科学的外科の生みの親」と称されると述べています。
 また、ジェンナーのナチュラリストとしての業績として、カッコウの托卵の研究について紹介しています。
 第3章「ジェンナーと天然痘」では、1778年、ジェンナーが「牛痘にかかったことがあるという女性に人痘種痘を試み、発病しないことを確かめた」ことについて、「牛痘についての研究の最初とみなされる」と述べています。
 そして、牛痘種痘が、「ヨーロッパ大陸からアメリカ、アジアまで急速に広がり、ジェンナーの功績は高く評価されるようになった」が、「それまで人痘種痘で多大な利益を得ていた医師からは牛痘種痘は必ずしも安全ではないといった批判」が出され、英国では批判や反対にさらされたと述べています。
 第4章「ジェンナーが遺してくれたもの」では、「1804年、皇帝の座についたナポレオンはジェンナーの業績をたたえ、最高の勲章を授け、翌年にはフランス軍全員に牛痘種痘を義務づけた」と述べ、1806年には、アメリカ大統領ジェファーソンもジェンナーを称える手紙を書いていることを紹介しています。
 第5章「日本の近代医学と牛痘種痘」では、「江戸では漢方医の牙城である幕府医学館の勢力が強く」、牛痘普及の活動には制約があったが、「玄朴や立斎らによる種痘の成果を幕府は無視できなくなった」と述べています。
 また、立斎が出版した『牛痘発蒙』の扉には、「牛に乗った牛痘菩薩が、疱瘡の悪魔を牛に踏みつけさせ、子供たちに救いの手を差し伸べている挿絵がのせられている」としています。
 第6章「ジェンナーの予言」では、天然痘が根絶できた理由として、
(1)天然痘ウイルスは、人の間だけで広がるため、人だけを対象とすればよかった。
(2)天然痘ウイルスの遺伝子が比較的安定しているため、ひとつのタイプのワクチンで効果的に予防できた。
(3)天然痘の症状が特徴的で患者を見つけやすかった。
の3点を挙げたうえで、根絶作戦で重要な手段になったのは、「乾燥ワクチンと二叉針というローテクノロジーだった」と述べています。
 そして、「天然痘ウイルスの廃棄は、基礎的研究を重視する研究者グループと天然痘再発の際のリスクを重視する公衆衛生グループの見解の対立だけでなく、国家安全保障という政治的背景が強く関わっていると推測されている」として、「現在、天然痘ウイルスはバイオテロのための生物兵器として、もっとも重要な病原体と見なされている」と述べています。
 本書は、天然痘の根絶までに払われた多大な努力を追った一冊です。


■ 個人的な視点から

 昔から抵抗を感じる人が多かったようですが、基礎知識のある現代でも抵抗を感じる人は少なくないのではないかと思います。そう考えると世界で初めてタコを食べた人は偉いなと改めて感じます。


■ どんな人にオススメ?

・近代医学を信頼したい人。


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