« 貧困の倫理学 | トップページ | 「若者」の時代 »

2015年7月 6日 (月)

マーケット・デザイン オークションとマッチングの経済学

■ 書籍情報

マーケット・デザイン オークションとマッチングの経済学   【マーケット・デザイン オークションとマッチングの経済学】(#2451)

  川越 敏司
  価格: ¥1,782 (税込)
  講談社(2015/2/11)

 本書は、「単なる理論ではなく現実世界に大きなインパクトを与える新しい研究分野」であり、「経済理論によって現実世界における制度の設計・改革を行う分野」である「マーケット・デザイン」の内容をなるべくわかりやすく解説したものです。
 第1章「市場メカニズムと情報の問題」では、「中央集権なやり方ではうまくいかない時、先の『見えざる手』の比喩のように、グループのメンバーが各自、分権的に意思決定するという前提で、なにかうまい方式をデザインして、個人の利益追求が社会全体の利益と一致するようにできないだろうか? という発想から生まれたのがマーケット・デザイン」だと述べた上で、「マーケット・デザインの主な応用分野」として、
(1)マッチング理論:経済主体の間で金銭の授受を伴わないような取引を考察する。
(2)オークション理論:金銭の授受を伴う状況を扱う。
の2点を挙げています。
 そして、「マーケット・デザインはまさに、何らかの理由で市場が存在しないか、市場メカニズムを利用することが適切ではないような状況において、中央当局や誰か権力者の命令によらずに、家計や企業が分権的に自主的に、社会的に望ましい結果(例えば、効率的な資源配分)を実現するように知らず知らずに導かれていくような誘引を与える配分方式をデザインすること」だと述べています。
 第2章「戦略的行動と市場――ゲーム理論による分析」では、「パレート効率性と個人合理性という2つの条件を同時に満たすような配分」であるコアについて、「コアというものを配分の良し悪しを決める基準として考えると、誰と提携を結ぶべきかという協力ゲームの問題は、個人合理的でパレート効率的な配分をもたらす提携はどれかと言い換えることができ」ると述べています。
 そして、「メカニズム・デザインはあくまで理論上うまく機能するメカニズムを研究しているのに対し、マーケット・デザインは現実世界で実際に機能するメカニズムを研究する、工学的な側面がある」と述べています。
 第3章「オークションの基本原理」では、「二位価格オークションは、ルールは違いますが、この競り上げ式オークションと全く同じ結果をもたらすオークション方式になっています(このことを、専門的には戦略的同値性といいます)」と述べています。
 そして、マイケル・ロスコップフたちが、二位価格オークションがまれにしか利用されない理由として、
(1)オークショニアの不正
(2)買い手が評価値を第三者に伝えること(情報漏洩)への躊躇
の2点を挙げているとしています。
 第4章「複数財オークションのケーススタディ」では、ウィリアム・ヴィッカレー、エドワード・クラーク、セオドアグローヴスの頭文字を採った「VCG」メカニズムについて、「対戦略性を満たすだけでなく、逆に、(若干の数学的条件の下で)対戦略性を満たすような方式はVCGメカニズムに限られることが証明でき」るとした上で、その基本的な考えかたは、「各プレーヤーは自分が参加したことで他のプレーヤーに与えた不利益に相当する額を支払うべきだ」というものだと述べています。
 そして、「一般的にはVCGメカニズムは配分決定ルールと支払決定ルールの2つの部分」からなるとした上で、「ローレンス・オースベルとポール・ミルグロムは、VCGメカニズムは理論上、重要な問題を抱えていると指摘して」いるとして、「VCGメカニズムは一番財を欲しがっている買い手に適切に財を配分するという意味で効率的な資源配分を実現しますが、売り手の収益を最大化するという観点からは、あまり望ましい結果を生み出さない」と述べています。
 また、「オークションされる剤が代替財ばかりの場合、VCGメカニズムは非常に満足の行くオークション方式なのですが、補完財が存在するとその魅力はかなり薄れてしまう」と述べています。
 さらに、「評価額を正直に入札することが支配戦略であるという、VCGメカニズムの重要な長所のひとつである対戦略性」は、実験結果によれば「現実的にはあまり満たされない性質」だと述べています。
 第5章「マッチング理論の諸問題」では、「2つのグループ(例えば、男女)が互いに相手側に対する希望順位(経済学では選考といいます)を提出し、その順位に基づいて双方の組み合わせ(誰と誰がカップルになるか、など)を決定するようなプロセスを、経済学ではマッチングといい、こうしたマッチングを効果的に行う方式を研究する分野をマッチング理論」と言うと述べた上で、「カップリング・パーティで用いられている方式は、効率的なマッチングを生み出しますが、必ずしも女性有利なマッチングを生み出すわけでもなく、対戦略性を満たさないことがあり、しかもそのマッチングは安定的ではないこと」があるとして、こうした問題をほとんど解消できるような方式として、「ゲール=シャプレーのアルゴリズム」とも呼ばれる「受入保留方式」について解説しています。
 エピローグでは、「たとえ、どんなに理論的に優れていようとも、現実に応用する際には、研究室の中では予期し得なかった事態が発生する」として、「マーケット・デザインの研究とはまさに工学(エンジニアリング)的なもの」だと述べています。
 そして、「複雑な現実に合わせて配分方式を改良していくと、対戦略性や安定性、効率性といったマーケット・デザインでは重視される基準のいくつかが失われていくといった自体になるかもしれませんが、このとき、研究者があくまでもエレガントな理論にこだわれば、現場の理解を得られなくなってしまうことでしょう」と述べ、「現実のマーケット・デザインでは、現場で制度を運用する人、制度に参加する人々、制度の成り行きを外から見守っている人々といった多様なステイクホルダーの理解を得つつ、できるだけみんなにとって満足度の高い方式をデザインしていくことが求められている」としています。
 本書は、理論にとどまらず、現実に役に立つ理論としてのマーケット・デザインを解説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 経済学の中でも心理学と実験を扱う分野は理論とのズレが出てくるところが面白いです。


■ どんな人にオススメ?

・実際に使える経済学を探している人。


« 貧困の倫理学 | トップページ | 「若者」の時代 »

組織の経済学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1244312/63175364

この記事へのトラックバック一覧です: マーケット・デザイン オークションとマッチングの経済学:

« 貧困の倫理学 | トップページ | 「若者」の時代 »

2016年12月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

最近のトラックバック

無料ブログはココログ