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2015年7月11日 (土)

生命の不思議に挑んだ科学者たち

■ 書籍情報

生命の不思議に挑んだ科学者たち   【生命の不思議に挑んだ科学者たち】(#2456)

  宮竹 貴久
  価格: ¥1,944 (税込)
  山川出版社(2015/1/21)

 本書は、「進化を考える目線で、生物の起源、性の生態学、老いと死、そして時間の生物学を明らかにするために努力を重ねてきた先人の歴史」を紹介するものです。
 著者は、「36億年ものあいだ、地球上に存在し続けてきた生物の進化を理解するためには、この仕組みを明らかにしようとするミクロ目線の研究と仕組みの多様性の謎を調べようとするマクロ目線の両方の研究が必要である」と述べています。
 第1章「生と種の起源を探る」では、「生命の不思議に対する関心は、生き物を認知して分けるという作業から始まった」として、この作業に生涯を捧げた博物学者・リンネについて、「リンネの名が現代の生物学に深く刻まれることになった理由は、生物を分ける流儀を世の中に広めたことによる」として、「当時、すでに発案されていた二名法という手法に乗っ取って、リンネは動物と植物と鉱物をひたすら分けていった」と述べています。
 そして、「自然選択が生じるために必要な条件」として、
(1)変異:生物の形質は個体によって違いがある。
(2)選択:その違いによって生存率や繁殖力が異なり、次世代に残せる子どもの数が変わる。
(3)遺伝:その形質の少なくとも一部は遺伝する。
の3点を挙げています。
 また、「分子レベルで起こっている遺伝子頻度の置き換わりを、ぼくたちが目にする生物の姿かたちの変化に置き換える」と、「世代を経て、一定の遺伝子が固定したり、固定しなかったり、漂うような様子」である「ドリフト」という現象で説明できるとしています。
 第2章「性に魅せられて」では、「性は、栄養に富んだ大きな配偶子と、DNA情報しか持たない小さな配偶子に二極化した」として、[前者をメス、後者をオスと呼ぶ」と述べた上で、組み換えがもたらすメリットの一つとして、「子どもの世代で生存にとってよくない遺伝子コピーの誤りが生じたとしても、次の組み換えでその誤りを修理できる遺伝子組成を手に入れる可能性も増える」として、「遺伝子に起きた有害な出来事は、あともどりさせることができる」という意味で、「マラーのラチェット」と呼ばれると述べています。
 そして、「世の中に性が誕生したことで、メスとオスのあいだにはさまざまな関係が生まれた。性の『選別』と『戦い』は限りなく続いている」とした上で、オスとメスの選別について、ダーウィンが公表した「自然選択の3つの原理」として、
(1)ある形質に変異があって、
(2)その形質をもつ個体はもたない個体にくらべて生存や繁殖において有利であり、
(3)その形質の少なくとも一部に遺伝性がある、
の3点を挙げています。
 また、ダーウィンが提唱した「性選択」というアイデアについて、
(1)同性内選択:片方の性がもう一方の性の個体をめぐって戦う。
(2)異性間選択:片方の性がもう一方の性を選ぶ
の2つのタイプに分けたとした上で、「ふすうはオスどうしがメスをめぐって戦い(同性内選択)、メスがオスを選ぶ(異性間選択)」理由として、「これは子に対する投資がオスよりもメスのほうが大きいからである」と述べています。
 さらに、「昆虫のメスには精子を貯めておく袋がある」ことから、「この袋のなかで、2匹以上のオスの精子が卵の受精をめぐって競争することを精子間競争と呼ぶ」として、精子どうしの争いには、
(1)最初に交尾したオスが採択するディフェンス(防衛)としての戦略
(2)2回めに交尾したオスが採択するオフェンス(攻撃)としての戦略
の2つの戦略があると述べています。
 そして、「いくつかの生物において、メスとオスが協力して子を残すという前提は、この20年の間に崩れ去った」として、「交尾を行うことがメスにとって『損失』になる場合がある」と述べ、「交尾から可能なかぎり逃げるメスが進化して、そのようなメスに対して強制的に交尾しようとするオスがより多くの子どもを残すという性的対立(軍拡競争)が生じる」とした上で、「遺伝子から性的対立を眺めると、2つのタイプの対立が見えてくる」として、
(1)遺伝子座間性的対立:精液の中に含まれる毒物質に関与するオスの遺伝子と、寿命を縮める交尾を拒否しようとするメスの遺伝子
(2)遺伝子座内性的対立:メスとオスの同じ形質を支配する遺伝子どうしで対立が生じているもの。
の2点を挙げています。
 また、「動物がある行動を採択するときに、次元の異なる4つの説明がある」として「動物行動におけるティンバーゲンの4つのなぜ」による「オスが他のオスに対して攻撃」する説明として、
(1)至近要因:オスの体の中のアドレナリンなどの神経生理物質の濃度が高くなるため
(2)発達要因:オスが適齢期になり、成長ホルモンが恋と戦いのモードに入ったため
(3)進化要因:戦いに勝ってメスへの求愛の交渉権を獲得しなければそのオスは子孫を残せないため
(4)系統発生要因:生物が歩んできた系統樹の中の、どの位置にその生物が収まるのかによって、その生物のオスが他のオスに対して取る行動は異なる
の4点を挙げています。
 さらに、「動物が採用する行動の生理学的基礎や分子遺伝などのメカニズムは問題にせずとも、ある遺伝形質が子どもに伝わって発言するか否かだけをシンプルに考える」という「フェノティピック・ガンビット」という考えかたによって、「動物の行動は、メカニズムや遺伝子を調べなくても、次世代に残せる子どもの数だけ(正確にはある個体が残せる孫の数の大小)を比較し、どの行動を採択した場合に最も適応度が高いかを指標にすればよいとされた」と述べています。
 第3章「寿命の先送りに挑む」では、「繁殖と寿命には二律背反(トレードオフ)が存在する」として、「この二律背反には遺伝的な背景があるため、若くしてたくさん子どもを産むが短命となる集団と、繁殖を抑えて長命になれる2つの集団が進化できる」とする「二律背反仮説」を紹介しています。
 そして、「実は栄養の良し悪しによって、繁殖と寿命の二律背反がみられたり、みられなかったりする」として、「食することと老化は、密接に結びついていて進化してきた」と述べています。
 本書は、生物学の魅力を、数々の先人たちの業績を紹介しながら教えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 生命科学の分野も最近ではすっかり細分化してしまい、高校までで習う「生物」と最新の研究のギャップが大きすぎて一般人にはわかりにくいところがありますが、本書のような解説書が数多く出てくれるとありがたいです。


■ どんな人にオススメ?

・生命科学の流れを知りたい人。


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