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2015年8月 9日 (日)

消えゆく熱帯雨林の野生動物

■ 書籍情報

消えゆく熱帯雨林の野生動物   【消えゆく熱帯雨林の野生動物】(#2485)

  松林 尚志
  価格: ¥1,836 (税込)
  化学同人(2015/8/6)

 本書は、ボルネオ島マレーシア領サバ州の熱帯雨林で野生哺乳類の生体や行動を研究している著者が、「熱帯地域に生息する絶滅危惧動物の現状と保全アプローチについて、5回の集中講義で紹介」するものです。
 第1章「絶滅の危機にある東南アジアの野生動物」では、種の絶滅について、規模の大きさにより、
(1)大量絶滅(カタストロフィによる種の絶滅)
(2)地球規模での種の絶滅
(3)地域的な種の絶滅
の3つに分類されるとした上で、「人間活動によって多くの野生動物が絶滅の淵に追い込まれている」として、
(1)乱獲
(2)開発やそれに伴う汚染などによる生息地の消失
(3)捕食や競合、感染症の原因となる外来種の持ち込み
の3点を挙げています。
 そして、「野生動物の楽園のイメージがあるボルネオ島、しかしそこは生息地そのものが絶滅の危機に瀕している状態である」として、「サバ州の森林地図をみたとき、誰もが気づくこと」として、「少ない保護林と広大な面積を占める商業林」を挙げ、「野生動物を考慮した商業林管理」に言及しています。
 第2章「生物多様性のホットスポット、塩場」では、「ボルネオ島の熱帯雨林は、地球上の生物多様性ホットスポットの一つ」とした上で、ここでの「商業林」とは、「日本のスギやヒノキ林のような人の手によって植栽された人工林ではなく自然林」を指し、「伐ることができる森林」であると述べています。
 そして、「塩場(塩なめ場)」について、「海から離れた内陸部は、沿岸部に比べてより深刻なナトリウム不足に陥っていると考えられる」が、「森の中にはナトリウムをはじめとするミネラル類に富んだ環境」である「塩場」と呼ばれる「特定の湧水あるいは土壌」があり、「熱帯地域での塩場研究といえば、中南米やアフリカで盛んであったが、東南アジアではほとんど行われていなかった」と述べています。
 そして、著者らが「2003年から開始した塩場調査の結果、野生動物にとっての塩場の意義を科学的に示すことができた」ことで、「2008年からサバ州森林局は、生息地保全として塩場周辺環境の重点保護を森林管理に採用する」ようになり、「さらに、絶滅危惧動物のオランウータンが、塩場を高い頻度で訪問すること、そして、塩場がオランウータンにとって生理的な意義に加えて社会的な意義もあることを示した」としています。
 第3章「野生ウシ、バンテンに迫る」では、「精悍な顔で筋肉質のたくましい外貌」をもつ野生ウシのバンテンについて、サバ州における調査の結果、「ミトコンドリアDNAの一部配列であるチトクロームbやD-loopの結果からは、家畜ウシとは離れていることが示された」と述べ、「一般に自然環境下において、野生ウシのオスが家畜ウシのメスと交配することがあっても、その逆の可能性は非常に低い」ことから、「調査個体については、家畜ウシとの交雑はなく、純血であるということが言えるだろう」としています。
 そして、「シビタンのバンテンは、パルプ・プランテーションの開発によって、低地から高標域に追い込まれ、さらにその範囲は狭められていったのだろう」としながらも、「地形が急峻で、囲い込みが容易ではないここと、何より一番の問題は、この地域で開発側と地元住民との間で軋轢が生じていることであり、それを無視して、この地域をバンテンの保全地域にすることは難しいと感じた」と述べています。
 また、「今回、新たに確認された生息地も含めた中で、これまで全く注目されていなかったパイタン商業林が、ボルネオバンテン飼育繁殖計画に最も適した場所であることが分かった」と述べています。
 第4章「絶滅危惧動物フィールドレポート」では、「東南アジア以外の熱帯地域に生息する絶滅危惧動物を取り上げることで、問題点の共通性や地域性を理解したい」としています。
そして、ライオンが家畜だけでなく人間を襲う事例が増えている理由として、「人口増加によるライオン生息地への人間の生活圏の拡大や、ブッシュミート需要に伴う狩猟者の増加により襲われる機会が増えたこと」などを挙げ、「農作物収穫期、農作物をイノシシなどの害獣から守るために農民が畑の中に作った小屋での就寝時に急増する」と述べています。
 著者は、「どの地域においても、被害者らは報復として加害動物を殺傷するケースが後を絶たない」として、「野生動物の生息地保全に目を向ける際、そこには開発に翻弄される野生動物同様、人間どうしの問題をも垣間見るだろう」と述べています。
 第5章「絶滅危惧動物のゆくえ」では、「ヒトおよびヒト以外の脊椎動物を宿主とする病原微生物が、どちらにも病気を発症させる感染症」である「ズーノーシス(zoonoses:人獣共通感染症)」について、「ズーノーシスの自然宿主としてコウモリ類が多いことの理由」として、
(1)コウモリは哺乳類の種類の2割を占めるほど繁栄している。
(2)飛翔能力を持つために利用空間が広く、接触する機会が多い。
(3)巨大な集団ねぐらをつくるため集団内にウイルスが広まりやすい。
(4)小型哺乳類としては寿命が長いためウイルスの保持期間が長い。
などを挙げています。
 本書は、人間と野生動物の関わりを、開発と保全のどちらか一辺倒でない目線から描いた一冊です。


■ 個人的な視点から

 野生ウシを追跡する話は呼んでいて楽しいですが、やはり危険とも隣り合わせの土地なので、続きはまた別の本で読んでみたいです。


■ どんな人にオススメ?

・熱帯雨林に夢をはせる人。


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