« 国境なき医師団――終わりなき挑戦、希望への意志 | トップページ | 海洋大異変 日本の魚食文化に迫る危機 »

2016年1月21日 (木)

食 90億人が食べていくために

■ 書籍情報

食 90億人が食べていくために   【食 90億人が食べていくために】(#2514)

  John Krebs (著), 伊藤 佑子 (翻訳), 伊藤 俊洋 (翻訳)
  価格: ¥1,080 (税込)
  丸善出版(2015/6/26)

 本書は、「食」に関して、「サイエンス、歴史、文化の視点から総合的に書かれた入門書」です。
 第1章「食いしん坊の裸のサル」では、「古代人の食事、人類の化石の中に残された食生活の様子、そして今日の食事に繋がる重大な変化をもたらしたいくつかの出来事」について述べています。
 そして、「狩猟採集の生活から、現在の生活までの旅の過程で、私達が食べてきた食事」には、3つの大きな変化があったとして、
(1)「調理」することの発見
(2)「栽培」をはじめたこと
(3)食物の「保存と加工」
の3点を挙げています。
 また、「過去180万年の間に、私たちの祖先の形態や生理学的な特徴が劇的に変化して、調理した食べ物を食べるのに都合よく変わったことは、疑いようがありません」として、
・顎はあまりに弱く、歯や口は小さく、消化管はあまりに短く、野生の生の食物を食べることはできそうにない
・脳は、調理された食べ物から供給される豊富なエネルギーを必要とする
・人類以外の動物なら食べられる動物の死骸の肉を食べれば食中毒を起こす
などの点を挙げ、「このような、野生の食物を生で食べて健康に生きられるという能力を失うことは、生物の形態や生理機能のなかで不要なものは消滅していくという、自然選択による進化の一例」だと述べています。
 さらに、農耕が生き残り、広がってきた理由の一つとして、「私たちが過去1万年の間、ことのほか温暖で安定した気候のもとで生活してきたこと」を挙げています。
 第2章「好き、好き、だ~い好き!」では、「私たちが『味覚』とよぶものは、実際には、多くの場合その食べ物の風味」であり、「幾つかの間隔が刺激されて信号が入力された複合的な結果」だと述べた上で、「風味を与える匂いは、いわゆる鼻孔の後方で感じる匂いといわれるもので、鼻の穴から吸い込んだ匂いのついた空気ではありません。口の奥で口と鼻の二つの通路が繋がっているので、鼻の後方に繋がる通路を移動してきた匂いが風味を与えている」と述べています。
 また、「世界の大人のおよそ4分の3が、個人差はありますが乳糖を分解」できないが、「北ヨーロッパでは95パーセント以上の大人が乳糖を分解できるのに対し、アジアのいくつかの地域では乳糖を分解できる人は10パーセントに達しません」と述べ、「食料生産の一つの方法として家畜が農場で飼われるようになると、ラクターゼ存続遺伝子の頻度が急速に増加」し、「これらの人々にとって、ウシ、ヒツジ、ヤギや、その他の動物のミルクは、新しい栄養豊富な食物であり、それを分解する能力を持つことは、生物学的に極めて有利だったので、ラクターゼ存続の進化に急速な自然淘汰が起こった」と述べています。
 第3章「何が悪かったんだろう?」では、「肉骨粉をウシに与えることは世界中の多くの場所で広く行われていたのに、なぜUKがBSE問題の世界の中心になってしまった」のかについて、
(1)肉骨粉製造過程の殺菌温度が変わったこと
(2)1970年代のUKの畜産農家が、肉骨粉を若い乳牛に与え始めたが、若いウシは成牛に比べてこの病気に対する感受性がより高かったと思われること
(3)UKには非常に多くのヒツジがおり、毎年5000~1万件のスクレイピーが発生していること
の3つの要因を挙げています。
 まあた、「現在では、法律が制定されて施行されたことにより、豊かな国の食品規制は19世紀半ばに比べ、比較にならないほど厳密になって」いるが、「食品の危険性がなくなったわけではありません」と述べています。
 第4章「あなた=あなたが食べた物」では、「19世紀の終わりまでに英国は歴史上最も大きな帝国を擁する、世界で最も豊かな国となりましたが、最も貧しい人々の栄養状態は、依然ひどいものでした」として、1899年に、ボーア戦争のための兵隊を募集したが、「40パーセント近くの兵士は健康状態が悪くて兵役につけず、80パーセントは戦闘に不的確だと思われ」たとして、「兵士の体格は現在の標準に比べると小さく、18歳の平均身長が162.6センチメートルでしたので、兵隊の採用基準の身長が160センチメートル以上から152.4センチメートル以上に引き下げられました」と述べています。
 また、ビタミンについて、その「発見の歴史は、新しい化学的な証拠が、それまでに科学界や医学会で確立していたドグマを否定するものであった場合に、どれほど無視されるものなのか」を示すとともに、「最終的には証拠と実験法が、それまでの世間の常識と偏見を覆すことができること」も示しているとした上で、「たぶん、示された証拠に対する抵抗が最も激しかったのは、壊血病の歴史でしょう」と述べています。
 そして、「多くの先進国では、今日、平均寿命と病気に対する感受性に、最富裕層と最貧困層の間で大きな格差が生じて」いるとして、「UKでは、最富裕層と最貧困層の間の平均寿命は、およそ13年も違い」、「この違いの多くは、住居と食事と生活様式の貧しさが原因」かもしれないとしています。
 第5章「90億人の『食』」では、「1960年から2000年の間に、世界の人口は30億人から60億人へと約2倍になりましたが、1人あたりの食糧生産量は25パーセント増えました。これは『緑の革命』の結果です」として、アジアと南アメリカを中心に、
(1)おもな穀物の種類をより多くする食物の品種改良
(2)灌漑
(3)農薬の適用
(4)機械化
の4項目の組み合わせで農地の生産性が劇的に上昇したと述べています。
 そして、「緑の革命が20世紀後半の人類に莫大な利益をもたらし、開発途上国の数十億人の人々を飢餓から救ったことは、疑う余地もありません」としつつも、「緑の革命はコストがかかります」として、
(1)水のような少ない天然資源を使い尽くしてしまう
(2)集約的な農業では、化学肥料の生産や灌漑用水を組み上げるためや農機具に大量のエネルギーを使う
(3)私たちが消費するために、より多くの物を土地から搾り取ることで農業を強化すると、残っている自然から食べ物を取り去り、集約的に耕作された景観からは、豊富にあった野生の植物や動物が急速に数を減らしていることが明らかになっている
の3点を挙げた他、「緑の革命による生産性の向上は、頭打ちになってきているかもしれません」と述べています。
 著者は、「21世紀前半の地球規模での挑戦は、エネルギーと水と農薬をもっと有効に使って食料を増産することと同時に、温室効果ガスの放出を減らし、気候変動にうまく対処し、自然環境と生物多様性の破壊を防ぐこと」だと述べています。
 本書は、「食」をめぐるヒトの関わりの変化を追った一冊です。


■ 個人的な視点から

 「食」に関する本はたくさん出ていますが、進化論を含めた幅広い科学分野と絡めた話はなかなかないのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・科学の目で食について考えたい人。


« 国境なき医師団――終わりなき挑戦、希望への意志 | トップページ | 海洋大異変 日本の魚食文化に迫る危機 »

その他科学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1244312/66084817

この記事へのトラックバック一覧です: 食 90億人が食べていくために:

« 国境なき医師団――終わりなき挑戦、希望への意志 | トップページ | 海洋大異変 日本の魚食文化に迫る危機 »

2016年12月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

最近のトラックバック

無料ブログはココログ