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2016年1月22日 (金)

海洋大異変 日本の魚食文化に迫る危機

■ 書籍情報

海洋大異変 日本の魚食文化に迫る危機   【海洋大異変 日本の魚食文化に迫る危機】(#2515)

  山本智之
  価格: ¥1,728 (税込)
  朝日新聞出版(2015/12/10)

 本書は、「陸にくらべて海の中は、環境に変化が起きても見過ごされやすい」として、「海の生き物たちを脅かす乱獲や開発、汚染に加えて、『温暖化』『酸性化』『外来種化』といったキーワードに焦点を当てて」書かれたものです。
 第1章「食卓につながる海の異変」では、「外来種は、自然のバランスを崩し、本来の生態系を変えてしまうおそれがある」ため、「行政による駆除の対象になるケースもある」が、東京湾のホンビノスガイは、「あまりに数が増えたため、地元の漁師が本格的な漁業の対象にして、生計を立てるようになった」結果、「いつの間にか『江戸前の新名物』として市民権を得るまでになった」と述べ、その理由として、「この絵画酸素の少ない環境に強いこと」を挙げています。
 そして、「日本海近海では、海面水温の年平均値が過去100年あたりに1.08度高くなった」とした上で、「海水温の上昇が特に問題となるのは夏の時期だ」として、「日本のサケの回遊ルートは、こうした高水温の海域によって遮断されてしまう恐れがある」と指摘しています。
 第2章「ウナギが食べられなくなる?」では、「ウナギの資源量は急激に減っており、このままでは危ない」と研究者の間では20年以上前から心配されていたが、2014年6月、「国際版のレッドリストで絶滅危惧種に指定された」とした上で、「現在のウナギ養殖は、天然の稚魚に100パーセント依存して」おり、「養殖といっても、実際は、野生の稚魚を大量に取る漁業だ」とのべています。
 そして、1990年代に、「スーパーに安いウナギの蒲焼が大量に並ぶようになり、ウナギは『普通のおかず』のような感覚で買えるようになった」が、このカラクリとして、「人件費の安い中国ではニホンウナギの養殖も盛んだが、この時期、フランスなど欧州産のヨーロッパ鰻の稚魚を中国の養鰻場に運んで育て、それを日本向けに出荷するというビジネスが盛んに行われるようになった」結果、ヨーロッパウナギは、「ごく近く将来に絶滅の危険性が極めて高い」とされる「絶滅危惧IA類」に指定されたとして、「私たち日本人は、『中国産』の安い蒲焼きを食べ続けたことで、結果的に、ヨーロッパウナギを激減させた乱獲漁業に手を貸してしまったのだ」と述べています。
 また、ウナギの蒲焼のDNAを調査した結果、「ある牛丼チェーンの神奈川県内の店舗では、一杯の『うな丼』に、ヨーロッパウナギとアメリカウナギの蒲焼が一緒に並んでごはんの上に乗っていた」として、「日本の蒲焼きの流通がいかに複雑化しているかを示すエピソードだ」としています。
 第3章「日本のワカメは悪名高い『外来種』」では、「日本の海にやってきた外来種の中でも、定着後の歴史が比較的長い」ものとして、地中海などが原産の「ムラサキイガイ」、いわゆる「ムール貝」について、国際自然保護連合(IUCN)が「世界の侵略的外来種ワースト100」に選んでいると述べています。
 第4章「日本列島を北上するサンゴ」では、石西礁湖について、「日本最大のサンゴ礁域で、わずか5年の間に生きたサンゴが7割近くも失われていた」理由として、「2007年の白化現象の影響が大きい」と述べています。
 また、「日本のサンゴの分布の北限は現在、太平洋側は房総半島、日本海側は佐渡とされている」が、「温暖化が進む将来は、さらに北へ広がりそうだ」として、「海底の岩の上にサンゴがたくさん育てば、その分、海藻は減る」と指摘しています。
 第5章「もう始まっている『海の酸性化』」では、「CO2は水に溶けると酸として働く。このため、大気中のCO2濃度が高まるにつれて、海水の酸性度が強まってゆく」という「海の酸性化」について、「海水の化学的なバランスが崩れることで、海の生態系に将来、広範囲に悪影響が及ぶ恐れがある」と指摘しています。
 そして、「『海の酸性化』が進むと、貝類は炭酸カルシウムの殻を作りにくくなる」ことから、アワビやウニの生育に悪影響が出る恐れがあるとしています。
 また、「海によるCO2の吸収作用はこれまで、CO2が大気中で増える速度を抑え、温暖化を緩和してくれる『良い現象』だと思われていた」が、「そこに落とし穴があった」と述べています。
 第6章「南極海のウニ、ガラパゴスのナマコ」では、南極海で、「すでに乱獲が指摘されている生物もいる」として、「かつては『銀ムツ』という名前で流通していた魚で、たっぷりと脂を含んだ白身は非常においしい」白身魚の「メロ」について、その正体は、「スズキ目ナンキョクカジカ科の大型魚」である「マジェランアイナメ」とその近縁種の「ライギョダマシ」だと述べ、ともに大型魚ではあるが成長が非常に遅いことを指摘しています。
 また、「かつてアマモの宝庫だった東京湾」の面影を残す貴重な「アマモ場」が千葉県富津市の沿岸にあるとして、「アマモの茂みは魚や貝類、甲殻類を育み、海の豊かさを生み出す」ことから、近年、「国内各地の海域で、漁協やNGOがアマモの種子や苗を海底に移植し、『アマモ場』を再生させる取り組みを進めている」が、「遺伝的な違いを無視して、異なる海域のアマモを人の手で植えてしまうと、交雑が起きるなど、それぞれの海域に固有なアマモの遺伝的な多様性が失われる恐れがある」都市的sています。
 第7章「深海魚が語る海のごみ汚染」では、東京湾に毎年現れる「酸素が極めて少ない『貧酸素水塊』」について、「毎年6月ごろから発生が目立ち、ピークは9月ごろ。東京湾の湾奥部を中心に出現し、横浜市の本牧沖あたりまで広がる年もある」と述べた上で、「風が吹いて低層の貧酸素水塊が海の表面に湧き上がると、悪名高い『青潮』となり、多くの人々の注目を集めることになる」と述べています。
 また、「アカウミガメ」が、「エサの海藻や海草を食べるとき」に、プラスチックゴミを「一緒に口にいれてしまう傾向が強い」として、「プラスチックゴミによって消化管の閉塞を起こしたウミガメは、体がやせていたり、消化管に炎症が起きて黒ずんでいたりする。死亡との因果関係を示すのは難しいが、プラスチックゴミを食べたことが原因で死んでしまう個体も、おそらくいるだろう」とする、ウミガメ研究者で岡山理科大学教授の亀崎直樹氏の言葉を紹介しています。
 本書は、海をめぐる自然破壊を叫んだ一冊です。


■ 個人的な視点から

 「プラスチックゴミがウミガメの腸に詰まって死んでしまう」という話は色々なところで耳にしますが、本当にゴミが詰まって死んでいるのかどうかはよくわからないようです。


■ どんな人にオススメ?

・末永く魚を食べ続けたい人。


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