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2016年1月27日 (水)

すべての若者が生きられる未来を――家族・教育・仕事からの排除に抗して

■ 書籍情報

すべての若者が生きられる未来を――家族・教育・仕事からの排除に抗して   【すべての若者が生きられる未来を――家族・教育・仕事からの排除に抗して】(#2520)

  本 みち子 (編集)
  価格: ¥1,728 (税込)
  岩波書店(2015/9/18)

 本書は、「20年以上前には校内暴力や暴走族や深夜徘徊する若者たちの姿が、若者問題の定番だったが、その後の光景は様変わりした。くらしの先行きが見えず、相談する友人や知人がいない、社会的に孤立した若者たちが非常に多くなった」ことについて、「成人期への移行に伴うリスクの時代」であるとして、「学校教育における不登校や中退、複雑な家族関係、心身の不調やハンディキャップ、希薄な友人関係、仕事を通した社会関係の不在という点で共通」した若者たちを対象に、「若者移行政策の定立」をめざすものです。
 序章「移行期の若者たちのいま」では、「成人期への移行の時期には特有の課題がある」として、
(1)安定した職業生活の基礎固めをすること
(2)親の家を出て、独立した生活基盤を築くこと
(3)社会のフルメンバーとしての権利を獲得し、義務を果たすことができるようになること
(4)社会関係を作り社会的役割を取得試写会に参画すること
の4点を挙げています。
 そして、「困難な若者たちをめぐる現代社会のリスク」として、
(1)リスクの多様化:安定した雇用と家族を前提に機能していた社会保障システムが機能しなくなった。
(2)リスクの階層化:リスクに対処する力は社会階層によって歴然とした差がある。
(3)リスクの普遍化:生活の安定を担保していた完全雇用と、稼ぎ手としての男性世帯主がいる核家族という構造が不安定になった。
の3点を挙げています。
 また、「日本で『成人期への移行』に対する社会的関心が高まった」原因として、
(1)若年雇用問題の発生
(2)非婚化による急激な出生率の低下
の2点を挙げています。
 第1章「教育のなかの困難」では、
(1)日本的雇用の人材戦略と組織編成原理を概観し、それに乗れない(就職できない=移行が困難な)人たちの排除の諸相を見る。
(2)学校教育に内包される排除の要因を「自己責任」「地域による格差」「カリキュラム」「社会経済海藻と家庭の文化」に注目して見ていく。
(3)教育、とくに学校教育に含まれる困難、中でも「中退」に象徴されるリスクについて考える。
(4)「困難を抱える個人を、情報を途切れさすことなく地域につなぎ見守り支援し続ける」学校を基点とするケアの発想に立つ包括的支援システムの構築と運用を社会的排除に抗する実践例として紹介する。
としています。
 そして、「日本的高卒修飾システム」について、「『推薦指定校制』『一人一社制』に基づき、高校と企業との継続的・安定的関係である『実績関係』の中で生徒が就職を決定していく仕組み」だとした上で、その特徴である、
(1)高校と企業との「実績関係」
(2)就職についての進路指導の対応
(3)「よい成績→よい就職先」というメリトクラティックな(業績主義的な)原理に基づく進路の水路づけ
の3点をもち機能していたとしています。
 また、「日本では専門高校でさえ移行を支えるカリキュラムとは言えないのだから、普通科の非進学校や進学中心でない総合高校は、カリキュラムには『移行』の発想が見られない」として、「生徒指導をきびしくすれば学校生活からの排除につながり、職業生活のエートスも専門的知識・技能もカリキュラムから見て得られるとは言えないので以降からも排除され、二重の意味での排除に至る」と指摘しています。
 第2章「学校から仕事への移行を支える」では、「若者を立ちすくませている心理的状況」として、
(1)コミュニケーションが築けず孤立している。
(2)評価的まなざしに縛られている。
(3)自信(自己肯定感情)が持てない。
(4)何かをやりたいという意欲が弱い。
の4点を挙げた上で、「若者の立ちすくみの背景には、仕事に就くこともなく無為な時間を送っている者は甘えているという社会一般の認識がある」と述べています。
 そして、戦後日本でほぼ初の若年就労政策である「若者自立・挑戦プラン」について、「企業の採用行動や政府の労働力政策といった社会の側の構造的要因を問うことが弱く、若者の側の意識や意欲といった主体的要因へ働きかけるという構図であり、そのことの問題性を突く議論は多く出されてきている。その上、この『生きる力』とか『人間力』といったものが、『コミュニケーション力』とか『協調力』といったようにきわめて抽象的であり、さわにはそれを実現する手段を具体的に提供することができているわけでもない」として、「結局は『自分で考えて自分で決めろ』というように、若者自身に投げ出すことに終わっている」と指摘しています。
 また、「労働市場へと移行していくのが困難な若者層への『中間的な働き場』が必要になってきている」として、「一般就労でも福祉的就労でもない『中間的労働市場』を提供する『社会的企業』」が、「若者に対する仕事への移行支援策の一つとして期待される」と述べています。
 さらに、「若者支援機関を訪れる若者たちの多くは、個人化した競争的関係のなかで教育課程から排除され、他社からの共感的承認を得ることもできぬまま自尊感情を著しく損傷し、仕事の世界に入っていく自身も意欲も持ち得ず立ちすくんでいる。若者支援とは、まずなによりも若者たちが承認欲求を充足しながら働く自信と意欲を醸成することのできる学び直しの機会を提供するものでなくてはならない」と述べています。
 第3章「若者支援の変遷と日本社会が直面する課題」では、「女子は家庭でも労働市場でも、あらゆる被害者になりやすい」として、「ネグレクト、非暴力・性被害、家族やバイト先からの搾取など、非常にリスクの高い彼女たちはいつの間にか目の前から消えていた。貧困と暴力がつながっていること、進路への絶望感を抱いていること、家族関係のしがらみから逃れることの困難さに衝撃を受けた。『就労支援』『相談支援』の限界を実感した経験だった」と述べ、「15歳にして将来を諦めている彼女たちには、『経済的自立は叶う、夢は実現できるんだ』と信じられる仕事との出会いが必要になる。そして若い彼女たちががんばり続けるには、『保護者が見守ってくれなくとも、地域の信頼できる大人が自分には付いていてくれる』という安心感と帰れる場所も必要だ」と述べています。
 また、男子の就労阻害に関して、「現場の実感としては、『発達障がい』が就労の阻害要因になっていることを年々感じている」として、「彼らは学齢期には変わり者、もしくは極端に大人しい子ではあるが、成績は良いし反社会的行動も起こさないからと見過ごされ、就労現場で初めて『仕事ができない人』として解雇されたり、適応障がいを起こしてメンタルダウンしてしまうケースも多い」と述べ、「学齢期にそのリスクが発見され、本人や家族が理解し、ソーシャルスキル・トレーニング(SST)などの適切な支援があれば、社会に出てからも本人の自覚と周囲の理解を得て、比較的うまくいくことが期待できる。また、本人の能力の凸凹に合わせて職場環境を整えられればもっと多くの人が継続就労できるだろう」としています。
 そして、「広がる貧困と子どもを襲う生活困窮、そして進路を断たれ連鎖する貧困に対して、今最も必要な施策」として、
(1)学校でリスクをキャッチし、
(2)外部機関・人材と役割分担を意識しつつ、
(3)地域で有機的・継続的に連携しサポートすること
の3点を挙げています。
 第4章「就労困難な若者の実像」では、「困難を抱えている若者にとって、合宿型・生活支援型のプログラムは有効な手段である」理由として、「当事者を包括的に見ることが可能であること」を挙げています。
 第5章「若者を支える自治体の挑戦」では、「こども青少年局が発足する以前の横浜市の青少年行政」が、「基本的に『青少年健全育成』と言われる薬物や深夜徘徊、不純異性交遊などの非行防止のための啓発活動と、地域での青少年交流・体験活動の促進など社会教育的アプローチが主なもの」だったが、横浜市が「こども青少年局」という新しい組織を設置した際の基本方針は、
(1)青少年行政の対象を主に十代の思春期をターゲットにしたものから、「青年期から成人期への移行」に焦点を当て15歳~34歳まで年齢層を広げる。
(2)これまでの健全育成や社会教育的アプローチに加えて、福祉・医療的なケアや就労相談や職業訓練など社会・経済的な自立支援の取り組みを行うことで包括的な若者施策を展開する。
の2点であったとしています。
 また、「中間的就労の主たる対象となる生活困窮者の中でも、『健常者』と『障害者』の境界域にいる人たちは、障害者のように企業の法定の雇用義務が無いだけに、かえって一般企業では就労が困難な状況にある」として、「このような境界域にいる人たちが、仕事を得て経済的に自立することを支援するためには、地域単位で、たとえ困難を抱えていても働くことのできる新たな労働市場を形成していく必要がある」と述べ、「中間労働市場」と呼んでいます。
 第7章「若者政策における所得保障と雇用サービスの国際比較」では、「若者が抱えるリスクへの対応策を所得保障と雇用サービスの2つの視点から検討する」とした上で、「仕事の従事していない失業者あるいは非労働力にとって、無業者に対する所得補償制度は自らの生活を維持する上で重要な役割を担っている」として、その給付方法として、
(1)失業保険(雇用保険)による給付
(2)失業保険の受給期間終了後や失業保険未加入者を対象とする失業扶助
(3)十分な資力のないものに対する社会扶助
の3点を挙げています。
 本書は、若者の「生きづらさ」を本人のやる気や責任だけに帰すことなく考えることができる一冊です。


■ 個人的な視点から

 昔は、若い頃に多少「ヤンチャ」(この表現を自分に対して免罪符代わりに使う人間は大嫌いですが)をしていても、「引退」して真面目に働く気になればなんとか食っていけるだけの社会的キャパがあったので、若気の至りに走る人もいたんじゃないかと思います。
 実際のところ、「改心」したところで一生ついてまわるもので、特に現在はそれがよく見えるようになったのかもしれません。
 まあ、中高年の雇用と老後を守るために若者の食い扶持を簒奪した結果であって、若者自身の責任ではないのですが。


■ どんな人にオススメ?

・最近の若者は不甲斐ないと思う人。


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