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2016年1月 5日 (火)

アリの社会: 小さな虫の大きな知恵

■ 書籍情報

アリの社会: 小さな虫の大きな知恵   【アリの社会: 小さな虫の大きな知恵】(#2498)

  坂本 洋典, 東 正剛, 村上 貴弘
  価格: ¥3,456 (税込)
  東海大学出版部(2015/9/17)

 本書は、「アリと、アリと共に暮らす生物(好蟻性生物)が構築している、人間社会と異なったもう一つの社会の話」です。
 第1章「アリに学ぶ」では、「アリの社会では、生殖可能な個体はごく一部に限られ、他の個体は子どもを残せず、一生、生殖以外の労働に従事する。生物にとっての聖域ともいえる生殖にまで分業を広げてしまったのである。これを『繁殖分業』という」と述べた上で、「利他行動が進化しやすい条件」として、
(1)血縁度が大きい場合
(2)利他行動の効率がよく、少ない(援助者の)コストで大きな(被援助者の)利益が得られる場合
の2点を挙げています。
 そして、アリの女王が「交尾後にはみずから脱翅」し、「ワーカーは翅を完全に失った」ことについて、「いったん地上生活に適応すると翅の喪失は思いもよらない2つの大きな贈り物をもたらしてくれた」として、
(1)長寿を手に入れた
(2)多様な形態を獲得した。
の2点を挙げ、「いったん地上適応に成功すると、長寿と多型が労働分業の幅を広げ、高度な分業社会の進化を促した」と述べています。
 第2章「アリのグローバル戦略」では、南米のアルゼンチンとブラジル国境付近の亜熱帯域を原産とする「ヒアリ」が「悪夢(nightmare)」といわれる理由として、その凶暴性とともに「分類がひじょうに難しい種」であることを挙げています。
 そして、「侵入地のヒアリの血縁度がほぼ0という事実は、真社会性生物の進化の道筋を考えると矛盾になる。なぜ侵入地のヒアリは、血縁度がほとんど0になってしまっても高度な社会性が維持されるのだろうか?」と述べています。
 第3章「アリのメガコロニーが世界を乗っとる」では、外来種であるアルゼンチンアリが、
(1)生態系の撹乱
(2)農業環境におけるアブラムシ類の大繁殖
(3)生活環境への侵入
の3つの災いをもたらすと述べています。
 そして、「アルゼンチンアリが高い繁殖力を持つ一因は、スーパーコロニーを作ることにある」として、多くのアリが「近所の同種コロニーで小競り合いをしている」のに対し、「コロニーの大きなアルゼンチンアリではそのような小競り合いにかかるコストが少なく、その分繁殖に投資できる」と述べ、「ヨーロッパの地中海沿岸には、スペイン北部からイタリアまで、6,000kmにわたってヨーロピアン/メインと呼ばれる長大なスーパーコロニーが分布する」としています。
 第4章「アリカンパニーの成功の秘訣」では、「コロニー営巣初期において重要になるのが、労働を担うワーカーカーストの存在であり、その際ワーカーを生産するための資源をいかにして確保するか」であるとして、「女王アリが単独で営巣した場合」には、
(1)前もって資源を準備し営巣場所へ移動する(蟄居型)
(2)移動した後女王アリみずからが資源を集める(非蟄居型)
のどちらかの方法を採用していると述べています。
 そして、南西諸島に生息するトゲオオハリアリについて、「特殊な社会構造をもっている」として、「女王カーストが二次的に退化しているため、社会はワーカーカーストのみから構成され(無女王制)、受精したワーカー(ガマゲイト)が女王アリの代わりに繁殖を行う」と述べ、「繁殖個体は後天的に決定され、羽化後、翅の痕跡器官である翅芽をもつ個体だけがオスと交尾することができ、ガマゲイトとなる。その他の個体は、羽化時にガマゲイトによって翅芽を切り取られてしまい、ワーカーとしての運命をたどる」としています。
 また、「ワーカーは女王アリに比べて弱い立場のようだが、実際には女王とワーカーはけっして主従関係などではない。たとえば、外来種として有名なアルゼンチンアリの多女王性コロニーでは、毎年春先に最大で90%もの多くの女王アリがワーカーによって殺される」と述べた上で、「ある個体(またはカースト)を生産・維持するかどうかの決定には、血縁選択上の利害(オス生産、性比の偏り、働動効率等)にくわえ、生産するのに要した資源量や個体維持に必要と予測される資源量といった資源配分的視点が不可欠と考えられる」と述べています。
 第5章「新規参入者の選択」では、アリの群れの中で「茶色くて丸い姿をした虫がすばしっこく駆けまわる」アリの巣に棲むコウロギ「アリヅカコウロギ」について、「アリの卵を食べる、アリの体表を舐める、アリどうしの栄養交換中に割り込んでエサをかすめ取る、口移しでアリから給餌されるなどの生態が明らかになっている」と述べ、「アリヅカコウロギ類は素早い動きでアリとの物理的接触を繰り返すことにより、アリの体表炭化水素を剥ぎとって自分の体表に吸着させる『化学擬態 chemical mimicry』をおこなっていることが示された」と述べています。
 第9章「アリ社会の最新男女事情」では、「とくにアリ類を中心にその特殊な繁殖様式を解説し、それから提出される新たな社会生物学上の問題について紹介する」として、「集団中の遺伝的多様性の維持・増加という点では、無性生殖は有性生殖よりもどうしても劣る。だが、無性生殖の発生機構は有性生殖より複雑であり、その機構によっては親から子へ受け継がれる遺伝子構成にある程度の多様性をもたらせることができる」と述べています。
 そして、「社会性昆虫、とくにハチ目昆虫では未受精卵からオスが発生するため、そもそも無性的に発生する潜在力は高い。また多くのハチ類や、アリの一部の系統群ではワーカーカーストにも卵巣があり、無性的な繁殖が恒常的におこなわれている」とした上で、「繁殖者と生産する対象、さらにそれに依存して発達した特徴」によって、
(1)ワーカーによる無性生殖
(2)未交尾女王による無性生殖
(3)交尾女王による無性生殖と有性生殖
(4)交尾女王とオスの無性生殖
の4つに大別できるとしています。
 また、「無性生殖による特殊繁殖様式は性の意義と機能についても新たな視点を与える」として、「女王アリによる無性生殖は生活史上の利点にくわえ、個体が自己の遺伝子の子孫への受け継ぎを最大化する戦略として進化してきたと推測される」が、「極端な無性生殖への依存は集団、特にコロニーを支えるワーカー集団の遺伝的多様性を低下させ、無性生殖のコストを被りやすい。そのため、ワーカーの遺伝的多様性を維持する機構も同時に進化し、それはオスの特徴によく現れていた」と述べています。
 第10章「遺伝子からみたアリの社会」では、「多くの社会性昆虫では、同じ遺伝子型の個体が異なる表現型を示しながらも機能的に統合されており、コロニー全体を一つの生命体と見ることもでき、しばしば『超個体』と呼ばれている」と述べた上で、セイヨウミツバチにつちえ、「数千のワーカーが育児や採餌をおこなうのに対して、繁殖を担うのはわずか1個体の女王バチ」であり、「女王バチはワーカーに比べて、卵巣が著しく発達し、体サイズは1.5倍ほど大きく、寿命は約20倍も長い。この女王バチとワーカーはどちらも受精卵から生じるメスだが、幼虫の時期に異なる条件下で育てられることで、どちらのカーストに発生(分化)するのかが決まる」と述べています。
 そして、「ゲノムDNAの配列の変化を伴わずに遺伝子発現のパターンを変えることで、細胞や個体の形質を変化させる機構」である「エピジェネティック制御」について、これまで「DNAやヒストンへの化学的な修飾(メチル基やアセチル基といった化学修飾の付加や除去)によってもたらされるエピジェネティック制御は環境条件に応じて迅速に変化すること、そして次世代にも継承されうることが示されて」おり、「昆虫にはこれらの制御がないとされてきた」が、「現在では昆虫でも普遍的に存在する機構であることがわかってきた」と述べた上で、「ロイヤルゼリーからはエピジェネティック制御に関わるヒストン脱アセチル化抑制物質が見つかっており、ヒストンへの脱アセチル化を抑制するとともにDNA、のメチル化にも補助的な役割を果すことも示された」と述べています。
 また、「社会性昆虫のコロニーは血縁者からなる『超個体』であるが、ただ一個の受精卵に由来する遺伝的にまったく同じ細胞からなる『個体』と異なり、内部にさまざまな対立を抱え込んでいる」と述べています。
 本書は、人間とはまた異なった「社会」を構成しているアリの世界を覗き込んだ一冊です。


■ 個人的な視点から

 アリが現在の姿を手に入れるまでに失ったもの(諦めたもの)について考えることは、人間の現在の姿、そして人間社会の姿を考える上で大きな示唆があるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・アリにも社会のルールがあることを知りたい人。


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