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2016年7月30日 (土)

基礎から学ぶ認知心理学 -- 人間の認識の不思議

■ 書籍情報

基礎から学ぶ認知心理学 -- 人間の認識の不思議   【基礎から学ぶ認知心理学 -- 人間の認識の不思議】(#2554)

  服部 雅史, 小島 治幸, 北神 慎司
  価格: ¥1,944 (税込)
  有斐閣(2015/9/19)

 本書は、「人間がものごとを認識するしくみを科学的に明らかにする学問」である「認知心理学」の入門書です。
 第1章「『誤り』から見る認知心理学」では、「直感的な思考や印象形成は、すばやく効率的に実行されるが、同時に、それが誤った信念につながる危険性ももっている」として、「私たちの頭の中には、たくさんの知識が蓄えられて」おり、「この知識の総体(集まり)」を「スキーマ(schema)」といい、「適切なスキーマが活性化すると、理解や記憶は大きく促進する。一方、適切なスキーマが活性化しない場合や、別の不適切なスキーマが活性化する場合は、理解や記憶が悪くなる」と述べています。
 そして、「一旦知識を持ってしまうと、知識を持っていない状態(他者や過去の自分)を想像することが予想以上に困難」になる「知識の呪縛」(curse of knowledge)の例として、「自分の行動や外見が他人に気づかれている程度を、実際異常に過大に評価する傾向」である「スポットライト効果」や、「『こうなることは最初からわかっていた』という思いを生む」傾向にある「後知恵バイアス」などを挙げています。
 第2章「感じる」では、「匂いの感覚(嗅覚)は記憶と結びつきやすいことが知られている」として、フランスの作家プルーストが「紅茶にマドレーヌを浸した時、その香りから子供の頃の記憶が蘇った」という逸話から「プルースト効果(Proust phenomenon)」と呼ばれていると述べています。
 第3章「捉える」では、「私たちが振り分けることができる注意の総量(注意資源 attentional resourse)には限りがあり」、「それを分割して使うと効率や精度が下がる」と述べています。
 そして、「私たちが対象を見て、それが何であるのかを捉え、あるいは対象を探し見つけ出すためには、対象の属性(特徴)を分析抽出する処理と、注意による対象の絞込処理が必要である」と述べています。
 第4章「覚える」では、「短期記憶の容量は、正確には、覚えられる数字の桁数や単語の数そのものを意味するのではなく、チャンク(chunk)と呼ばれる単位を意味する」とした上で、「短期記憶は、一度にどれだけの情報が覚えられるかという情報の保持という機能を重視した概念」だが、「その後の研究において、短期記憶は、情報の保持だけでなく、学習や推論などの認知活動において、情報がいかに操作されるかという処理(prcessing)機能、あるいは、制御(control)機能をもつということが明らかになってきた」と述べています。
 そして、「情報の保持だけでなく、処理という機能を重視」した「ワーキングメモリ」という概念について、「ワーキングメモリの中でも中心的な役割を担う中央実行系(central excutive)のもとに、3種類の従属システムとして、視空間スケッチパッド(visuo-spatial sketchpad)、エピソードバッファ(episodic buffer)、音韻ループ(phonological loop)が存在すると仮定している」と述べています。
 第5章「忘れる」では、「知っているという内的な感覚を既知感(feeling of Knowing: FOK)と呼ぶが、人の名前に限らず、物の名前、一般的知識(クイズの答え)などは、既知感が高いにもかかわらず、なかなか答えが出てこず、もどかしい状態になることは、喉まで出かかっている(tip of the tongue:TOT)現象と呼ばれる」と述べています。
 第6章「わかる」では、「スキーマは、私たちの認知的な枠組み(例えば、視覚であれば、ものの見方)を形成する役割を担う。つまり、過去の経験が抽象化され、一般化される形で、私たちの知覚や記憶、原語や推論など様々な認知に影響を及ぼす」と述べています。
 そして、「認知についての認知」である「メタ認知(metacognition)」について、
(1)メタ認知的知識:人間の認知特性、課題、方略についての知識
(2)メタ認知的活動:モニタリングとコントロール
に大別されると述べています。
 第7章「考える」では、「認知心理学が行ってきたことは、ゲシュタルト学派による(重要ながら曖昧な)概念を情報処理のことばによって再解釈・最定式化することであった」と述べています。
 そして、「私たちは、何かを正しいと思うと、その考えをさらに強めるための心の仕組みをもっている」として、「自分の仮説に合う事例ばかりを探し、自分の仮説に合わない事例を探そうとしない傾向」である「確証バイアス(confirmation bias)」について解説しています。
 また、「何が誤りかは自動的に決まるわけではない。誤りを同定するためには正しさを決める必要がある」として、その基準である「規範(norm)」について、
(1)規範的合理性(normative retionality):論理や数学などの規範に一致していること
(2)適応的合理性(adaptive rationality):変化する環境のなかで適切に振る舞うこと
の2点を挙げています。
 第8章「決める」では、「自分の所有物を高く評価」する「保有効果(endowment effect)」について、「強い損失回避(loss aversion)の傾向を明らかにしている」と述べ、また、「現状維持バイアス(status quo bias)」の一因ともなるとしています。
 そして、「ものごとの起こりやすさを判断する時、人は想起しやすさを手がかりにする」傾向である「利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)」について解説した上で、「自己の行為は他人の行為より思い出しやすい」という「自己中心バイアス(egocentric bias)」についても「利用可能性によって説明することができる」としています。
 また、「私たちは、できるだけ簡単で、できるだけ役に立つ方法(ヒューリスティック)を使うが、その宿命として、場合によっては間違える」として、「使う手がかりによって誤る」ことについて、「代表性ヒューリスティック(representatibyness heristic)」を解説しています。
 さらに、「課題をどのような枠組みで捉えるか」によってバイアスが生じることについて、「フレーミング効果(framing effect)」として解説しています。
 そして、「後悔を左右する人格的要因」として、対極的な意思決定者像として、
(1)マキシマイザー:効用を最大化しようとし、最高のものを手にしないと十分な満足が得られない。
(2)サティスファイサー:ある程度のレベルで満足し、それ以上のものを求めようとしない。その結果、後悔することが少ない。
の2点を挙げています。
 第9章「気づかない」では、「資格情報の受容と『見える』という感覚との間の乖離については、脳損傷の事例からヒントが得られる」として、「盲視(blind sight)」の症状を示す人は、「目の前に差し出された対象が何であるか応えることができがない、あたかも『見えている』日のように振る舞う」ことについて、「このような患者は、大脳新皮質の視覚処理を行う領域(後頭葉の視覚野と呼ばれている領域)に障害があることが知られている。眼球網膜に映った視覚情報は後頭葉の視覚野へ伝えられ、対象が何でどこにあるのかが認識される」と述べています。
 そして、「私たちが手を動かす時には、普通、手を動かそうと意図してから手を動かす」が、リベットらは、「被験者が手を動かそうとした時(意図したとき=意志をもったとき)、その瞬間の数百ミリ秒前に脳が活動することを示した」ことについて、「その後の研究により、それは運動準備電位と呼ばれる類のもので、いまでは意志に先行する活動電位であるとは考えられていないが、この実験は意志(will)や意識(consciousness)の研究に大きな衝撃を与えた」と述べています。
 また、「近年の多くの理論形は、心が2つの過程からなると考えている」として、
(1)直感的ですばやく、認知資源が少なくてすむが、柔軟性のない無意識的過程
(2)理性的で遅く、認知資源が必要となるが、柔軟性の高い意識的過程
の2点を挙げ、「このような考え方は、二重過程理論(dual process theory)と総称されて」いると述べています。
 第10章「認知心理学の歩み」では、「脳に対する関心の高まりと知識の蓄積は、脳の計算モデルの進展も促した」として、「脳の神経細胞網を模した並列分散処理(parallel distributed processing: PDP)モデルによって、柔軟なパターン認識や、英語の動詞の過去形の学習、スキーマに基づく連想などが可能になること」が示されたと述べています。
 そして、「認知心理学は、現在も変化し続けている。近接領域の研究成果やアプローチを取り込むことによって、また、新しい技術を取り入れることによって、アプローチは多様化し、研究テーマは広がりと深まりを増している。さらに、研究成果は、現実世界に応用され、人々の生活を改善するのに役立っている。基礎研究が充実すればするほど、応用研究の幅が広がる。したがって、こうした動きは今後も進展し、衰えることはないであろう」と述べています。
 本書は、認知心理学の基礎と歩みをカバーした入門書です。


■ 個人的な視点から

 「心理学」というと昔の人達はやれフロイトだユングだといったオカルトっぽい印象を持っていたり、パブロフの犬がよだれを垂らしたりという印象を持っているようなのですが、認知心理学となるとすっかり脳科学の一分野かのようであります。


■ どんな人にオススメ?

・人間の心の仕組みを知りたい人。


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