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2016年7月 6日 (水)

サル:その歴史・文化・生態

■ 書籍情報

サル:その歴史・文化・生態   【サル:その歴史・文化・生態】(#2530)

  デズモンド・モリス (著), 伊達 淳 (翻訳)
  価格: ¥2,592 (税込)
  白水社(2015/8/26)

 本書は、人類の遠い祖先であるサルについて解説したものです。著者は、「なんでもとにかく探求したいというサルの先天敵な衝動がわたしたちの高度な技術革新の基礎となり、動きまわることを好むサルの性格が知識を探求しようとするわたしたちの勤勉さに繋がったのである」として、「ところかまわず駆けまわり、騒がしく鳴き、賢く、樹上で生活するこの動物から何百万年もかけて進化してきた人類は、スタート地点ですでに優位にあった」と述べています。
 第1章「聖なるサル」では、「雄のマントヒヒの堂々たる姿は、小立像から巨大な像まで、また色鮮やかな壁画から優美に彫られたレリーフまで、古代エジプトの様々な形式の技術に見ることができる」と述べています。
 そして、「インドでは、サルに与えられた名誉の最高位にあるのがハヌマーンである。神話の中でこれほど際立った役割を果たした伝説的なサルは存在したためしがない。ヒンドゥー教においてハヌマーンは猿神であり、高貴な英雄、勇気や希望、知識、知性、信心をもたらす存在、そして身体的な強さ、忍耐の象徴と見なされている」と述べています。
 また、バリ島において、「昔から、聖なるサルは悪霊から寺院を守ると信じられていて、だからこそ日常的に観光客に咬みついたり彼らから食べ物を奪ったりしても丁重に扱いべきとされている」が、「聖なる森から迷い出て近くの村や田んぼで略奪行為を始めた場合」には、「サルの地位はまったく異なるものとなり、地元の人達から害獣と見なされ、それ相応の扱いを受ける」と述べ、その理由として、聖なる動物は「善なる力も悪なる力も体現する」存在であるとされるからだとしています。
 第2部「部族にとってのサル」では、「部族社会、とくにアフリカの熱帯地方では、サルの仮面や像が頻繁に作られ、さまざまな集いや踊り、儀式の場で利用されている。森の天蓋の高いところを駆けまわる野生の猿を、その知性、俊敏性故に崇める部族は多い」と述べています。
 第3章「嫌われ者のサル」では、「西洋世界におけるサルは、チャールズ・ダーウィンがサルは人類と近縁関係にあるとして人々に敬意を表するよう説く以前は、邪悪で不道徳ないきもの、毛むくじゃらの好色な獣、あるいは愚かさの権化として見下されていた」と述べています。
 そして、「サルはヨーロッパにはほとんど生息していなかったため、どこまでも邪悪で有害な動物という役割も長くは続かなかった」として、数世紀が経過すると、「ユーモラスな芸術や文学の世界で、愚かしい人間の諷刺として頻繁に登場するようになった」と述べ、『罪深かったサルが、愚かなサルとなったのである」と述べています。
 第4章「好色なサル」では、サルの特徴には、「詳しい検証が必要なもの」があるとして、「想像で言い伝えられてきた、その精力の絶倫ぶり」について、「古来、サルが人間と交わるという野蛮な噂が耐えず、残酷にレイプすることもあれば、喜んで身を任せる人間の女性と情事を重ねることもあるとも言われてきた」と述べ、「実際のサルの性行動は過剰とは程遠い」という点でこうした妄想が皮肉だとしています。
 第5章「サルと娯楽」では、「人類は何世紀にもわたってサルとの関わりを楽しんできた。サルの賢さとお茶目なところが、身近にいる犬や猫よりも異国的な動物をそばに置きたいと思うペット愛好家たちを魅了してきたのだ」と述べた上で、「芸をするサルはインドネシアだけでなく、インドやパキスタン、ベトナム、中国、日本、韓国、タイでも相変わらず日常的に見かける光景である」と述べています。
 第6章「利用されるサル」では、サルが利用されてきた分野として、
(1)食糧を集める労働力
(2)宇宙開発における宇宙飛行士の代役
(3)医療研究所で実施される調査の対象
(4)身体に障害のある人たちの介添え
の4つを挙げています。
 そして、「1948年から97年までの間に、合計32頭のサルがロケットに乗せられ、宇宙に向けて打ち上げられた」と述べています。
 また、「ここ数年、従来とは異なる形でサルを利用する動きが見られるようになってきている」として、「身体的に重度の障害を負った人に尽くすように訓練する」ことについて、「はじめてこの役割を担ったのは、ヘリオンという名のオマキザル」であり、「車の衝突事故で四肢に麻痺が残り、手足の自由を奪われたロバート・フォスターの相棒になったのだ」と述べています。
 第7章「サルにまつわる表現」では、サルに関連する格言のなかで最も有名なものとして、「サルにタイプライターを渡してみるといい。それなりの時間を与えて適当にキーボードを叩かせれば、そのうちシェイクスピアの作品ができあがる」というものを挙げ、「この着想を面白思った数学者たちは、理論上は不可能ではないが、こんな偉業を達成するには宇宙の年齢の十万倍よりも長い時間を擁するだろうと述べている」としています。
 第8章「サルと芸術家」では、「サルはこれまで、創作の対象として芸術家にはそれほど好まれてこなかった」とした上で、「ピカソは長いキャリアを通じてかなり頻繁に猿の絵を描いている。サルに対して親近感を覚えていたことは明白である」と述べています。
 第9章「動物としてのサル」では、サルの「繁栄の秘訣おしてのいくつかの特徴」として、
(1)器用な手先:親指が他の4本の指と対置するように進化し、木から木へと飛び移るときに小さな枝を握ることができ、平で敏感な爪のおかげで小さいものをより性格につかめるようになっている。
(2)立体視野:顔の全面に回り込んでいるため、両目を使った立体視が可能であり、視覚が身の回りの世界を支配するようになって嗅覚の使い途が縮小した結果、顔が非常に平らになり、めまぐるしく変わるその時々の気分を様々な表情で表現できるようにもなった。
(3)腕力に優先する知能:脳が進化してかなり高度な知能を持つにいたり、腕力に頼らずとも生存に関わる諸問題を解決できるようになった。
の3点を挙げています。
 第10章「ちょっと変わったサル」では、「すべてのサルのなかで最北に生息するニホンザルは、他の種なら耐えられないような寒冷地でも暮らすこと」ができ、「スノーモンキー」と呼ばれることも納得で、「非常に毛深く、通常の毛の上にさらに毛皮のコートを着ているのかと思うほどだ。短い尾も毛でびっしりと覆われていて、体の中で冷たい外気に晒されているのは、赤い肌がむき出しになった顔だけである」と述べています。
 本書は、身近でありながら知られていないサルと人間との関わりを描いた一冊です。


■ 個人的な視点から

 サルは人間と近いがゆえに、東洋では神聖な存在とされ、西洋では邪悪なものとされてきた、というのが面白いです。
 日本人は雪山で温泉に使っているサルの映像を見慣れていますが、世界的には大変レアな存在なようです。


■ どんな人にオススメ?

・サルを身近に感じている人。


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