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2016年7月 7日 (木)

地震前兆現象を科学する

■ 書籍情報

地震前兆現象を科学する   【地震前兆現象を科学する】(#2531)

  織原 義明, 長尾 年恭
  価格: ¥864 (税込)
  祥伝社(2015/12/2)

 本書は、民間の地震予知情報として世間で注目を集めている、
(1)地震科学探査機構のGPSデータ
(2)八ヶ岳南麓天文台のFM電波
(3)VLF電波伝搬の異常により地震を予測する地震解析ラボ
の3つについて、「できる限り客観的な検証」を行ったものです。
 第1章「東日本大震災は、本当に想定外だったのか?」では、「ある期間に発生した地震の数と、発生した地震のマグニチュードの頻度分布には、きわめて普遍的な関係が存在」するとして、「大きな地震と小さな地震の発生数の割合は一定」という「グーテンベルグ・リヒター則」について、「地震の発生に関するきわめて重要な統計的法則として広く認められて」いると述べています。
 そして、「阪神・淡路大震災は、観測については大きな変革と進歩をもたらし」たとして、「この地震を契機として、国が責任を持って、高精度かつ高密度の地震観測網を展開・維持することとなった」結果、「当時の科学技術庁参加の防災科学技術研究所に、全国およそ1000点の観測点で構成される高感度微小地震観測網(通称:Hi-net)が展開されることになり、ここに日本は世界最高水準の地震観測網を得るに至った」と述べています。
 また、「当時実用化が進んでいたカーナビゲーションでお馴染みのGPS連続観測システムが整備されることも決定し、これはGEONETと名付けられ」、「こちらも日本全国を約1200点の観測点で覆い、世界最高水準の地殻変動観測網となった」結果、「研究者が観測のための観測網の維持に忙殺され、肝心の研究が進まないという異常な状態が長く続いて」いたが、「このHi-netとGEONETの整備、および20年にわたるデータの蓄積により、地震予知研究は完全に新たな段階に入った」と述べています。
 第2章「地震予測情報のリテラシー」では、予知と予測の意味について、
(1)地震予知:時間・場所・規模の3要素が明確に示された決定論的なもの
(2)地震予測:前述の3要素は同じだが、確率論的なもの
と定義しています。
 そして、「地震に先行する異常現象の現れ方」のパターンとして、
(1)継続型:ある時点で異常が現れ、その状態が地震発生まで継続する。
(2)加速度型:異常が加速度的に増加し、地震に至る。
(3)過渡型:あるときに異常が短時間だけ現れ、その後正常に戻ってしばらくしてから地震が発生する。
(4)山型:ある時点で異常が現れ、その状態が一定期間継続し、その異常が収束したあとに地震が発生する。
の4つのパターンを挙げています。
 第3章「3つの民間地震予測情報を読み解く」では、「日本は建築物の基準も世界最高レベルであり、本当に“予知”が必要なのは、被害が出たり、鉄道が長時間止まるような可能性のある、陸域ではM6.5以上、海域ではM7以上の地震だけだ」と述べ、「このような予知情報は年に1回か2回しか出ないこと」になり、「民間の予知情報提供会社はそれでは経営が成り立たないと推察」されると述べています。
 第4章「地震は予知できる! その心理の背景にあるもの」では、「地震前兆現象として、その存在を少なからず信じる肯定派」は、
(1)動物の異常行動:86%
(2)地震雲:75%
(3)電気製品の異常:66%
であるが、これはインターネットによる調査で、「無作為抽出ではなく、そのテーマに関心のある人が、回答する傾向があるため」ではないかと述べています。
 そして、「自分に都合のいい情報だけを集めて、自己の先入観を補強することを、認知心理学では『確証バイアス』と呼んで」いると述べています。
 第5章「人が捉える前兆現象」では、動物異常行動や地震雲など、「人の目で判断することができる現象」を、「宏観異常現象」と言うと述べています。
 第6章「日本の地震予測研究の実情」では、「真の地震予知研究にあてられてきた国家予算は、さほど多くはありません」として、平成25年度の文部省地震・防災研究家の当初予算約171億円のうち、「予知」と名のつく研究はわずか4億円であり、「そのほとんどは地震観測や火山観測の維持・管理などで、真の意味で短期・直前予知研究にあてられた予算は、日本全体で年間1700万円足らず」であり、率にするとたったの0.1%だと述べています。
 そして、「大地震の前に自身が減る(静穏化)、または逆に増える(活性化)といったように、地震活動がそれまでと変わってくる可能性」について、「静穏化や活性化を際だたせる方法」として筆者らが開発した「RTM法」について、「 Rは距離(region)、Tは時間(time)、そしてMは地震の大きさ(magnitude)を表し」、「RTMは3つの値の積として定義され、過去一定期間内の地震活動の推移を示す指標」となると述べ、「RTM法は前兆現象抽出に有力な方法であることは確信して」いるが、「マグニチュード9クラスの地震では、その発生時期の推定に、5年から10年という大きな誤差がまだ生じて」しまうことから、「地下天気図だけでなく、電磁気学的手法や地下水などの、多角的な情報を重ね合わせて異常を抽出していくことが、実用的な予測実現への王道」だと述べています。
 第7章「馬鹿にできない地震発生のうわさ」では、地震流言の共通項として、
(1)発生日時は月日まで指定し、場合によっては時刻まで指定
(2)うわさの出処はもっともらしい権威を利用
(3)不安を助長するような出来事の存在
の3点を挙げて上で、「これらはうわさが流言化するための条件」だと述べています。
 そして、信州大学の菊池聡氏による「予言を的中させる方法」である、
(1)数多くの予言をする
(2)曖昧で多様に解釈できる予言をする
(3)悪いことを予言する
について、地震予測情報に当てはまるとしています。
 また、「地震予測を地震予言と混同されないようにするために、予測情報の発信者が心がけるべきこと」として、
(1)しばしば発生する地震ではなく、発生頻度の少ない地震を対象にする。
(2)曖昧さを少なくする。
(3)場合分けはやむを得ないが、検証を行う際は、場合分けされた予測すべてを全予測数に含める。
(4)予測情報は修正を加えることなく、原本のまま公開する。
の4点を挙げています。
 本書は、日本の「地震予知」と「地震予測」の現状を分析した一冊です。


■ 個人的な視点から

 耐震化したり備蓄したりっている地震に備えるっていうのは言ってみれば「保険」なわけで、地震が来なければその備えは「掛け捨て」になってしまう、というところが心理的なハードルになってしまいます。
 熊本県も近年地震が少ない地域ということだったり、台風に備えて瓦屋根が多かったり、ということが被害につながっていたようです。


■ どんな人にオススメ?

・地震を事前に察知したい人。


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