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2016年7月13日 (水)

時間を取り戻す 長時間労働を変える人事労務管理

■ 書籍情報

時間を取り戻す 長時間労働を変える人事労務管理   【時間を取り戻す 長時間労働を変える人事労務管理】(#2537)

  渡部 あさみ
  価格: ¥1,728 (税込)
  旬報社(2016/2/26)

 本書は、「1990年代以降、過労死・過労自殺に至るほどの長時間労働が、正規ホワイトカラー労働者に見られるようになった」として、「人事労務管理のフレキシブル化の下で、働く人々の懸命な努力にもかかわらず、労働時間が減らないのはなぜなのか。ワーク・ライフ・バランスが声高に叫ばれている今日、労働時間を短縮するにはどうすべきか」という問題意識により、「1990年代以降の正規ホワイトカラー労働者を対象に分析し解明する」ものです。
 第1章「長時間労働の現場で何が起きているのか」では、「1990年代以降の日本におけるホワイトカラー労働者の長時間労働問題と、人事労務管理のフレキシビリティの関係性を明らかにする」とした上で、「日本のホワイトカラー労働者の低い生産性」について、「ホワイトカラーの仕事の特徴は、多様性、個別性、『機械化』『標準化』の困難性にある」と述べています。
 そして、日本経営者団体連盟の「新時代の『日本的経営』」のベースとなったアトキンソンの「フレキシブルな企業」モデルにおけるフレキシビリティとして、
(1)機能的フレキシビリティ:市場環境や生産技術・方法の変化に応じて仕事内容や配置などを柔軟に調整できるようにすること
(2)数量的フレキシビリティ:市場動向に対応した労働力受給に応じて従業員の数を柔軟に調整できるようにすること
(3)財務的フレキシビリティ:市場の状況に合わせて人件費を自由に調整できるようにすること
の3点挙げています。
 また、「人事労務のフレキシビリティが目指す業務量(投入労働量)を市場動向に対応させるための人事労務のフレキシビリティ」として、
(1)人数:進む非正規化―容易に調達、容易に解雇
(2)スキルレベル:市場に必要な能力は自分の責任で身につける
(3)労働強度:成果主義化を通じた労働強化
(4)労働時間:労働時間管理の自己責任化
の4点について検討しています。
 第2章「労働時間の実態とその影響」では、「戦後日本の労働政策・労働行政は、先進諸外国からの圧力によって労働時間短縮政策を掲げつつも、企業側の事情を強く考慮しながら進められてきた」として、「積極的に労働時間を短縮させるのではなく、経済優先の後ろ向きでおずおずとした時間短縮であった」と述べています。
 そして、「『残業代を稼ぐために所定外労働をする』といった説がみられるが、それが『常識のウソ』であることは明らか」であり、「日本の長時間労働は、『業務量が多い』ことが大きな要因なのである」と述べています。
 また、過労死について、「仕事を原因とする過労・ストレスが誘因となった死亡や永久的労働不能を広く指す社会医学用語として定着」しているとして、その特徴は、
(1)性別では男性が圧倒的に多いが、女性も近年増加していること。
(2)被災者の年齢は40歳代、50歳代という働き盛りが多いは、その上下の年齢層にも広がっていること。
(3)被災者はホワイトカラー、ブルーカラーのいずれにも見られ、その職種は営業職と現業労働者が多いが、運転手、技術者、建設労働者等と実に幅広く、職場における彼らの地位はヒラ労働者が多数を占めるとはいえ、管理職にも分厚く広がっていること。
の3点であると述べた上で、「バブル期は、好況で仕事がたくさんありすぎたため過労死に至ったケースが多かったが、最近では、サービス業や営業部門等を中心に不況下での売上不振がストレスの原因となり、心筋梗塞等で過労死に至るケースが多い」としています。
 著者は、「日本の長時間労働の実態とそれをもたらす要因」について、
(1)先進諸国との国際比較の結果から見ても日本は長時間労働の国である。
(2)日本の労働時間の推移を見ていくと、1970年代以降、日本の総労働時間は減少傾向にあることが確認できたが、しかし所定外(時間外)について見てみると減少することはなく、90年代以降は拡大傾向にすらあることを確認した。
(3)総労働時間の減少は、週休二日制の浸透による影響もあるが、それ以上に非正規雇用労働者の急激な増加によるところが大きい。
(4)サービス残業が日本の経営者の体質になっている。
(5)所定労働時間の長さは、「多すぎる業務量」に原因があることが労使ともに認めているが、その問題が解決されない理由は、従業員を「自発的に」働かせる人事労務管理の構造にある。
(6)長期間労働が引き起こすメンタルヘルスの問題、過労死・過労自殺問題は、1990年代以降、正規雇用労働者の長時間労働問題の深刻化に伴い、さらに事態が悪化している。
の6点を挙げています。
 第3章「日本の労使は労働時間をどのように扱ってきたのか」では、「日本の経営者たちの労働時間管理の捉え方」は、「労働時間管理は、生産性向上を目的する合理化手段である。労働時間短縮という社会的要請にも、生産性の向上に伴う労働時間短縮でもって対応しようとする姿勢は変わらない」と述べています。
 そして、「所定外労働は、もともと一時的な性質のものであり、天災やその他臨時に事故が起こった場合とか、一時的な時期に発生する繁忙の場合などに限られているはずであるにもかかわらず、それが恒常化している」理由として、
(1)日本では、多くの場合、あらかじめ生産計画のうちに時間外労働を組み入れており、所定外労働が連続的に行われ、常態化している。
(2)低い賃金のもとにあって、生活を支えるため、どうしても残業や休日出勤を行うことによって収入を補わなければならない状況がある。
の2点を挙げています。
 また、2007年に連合によって打ち出された「年間総労働時間1800時間の実現に向けた時短方針―誰もが仕事と生活の調和のとれた働き方・暮らし方ができる労働時間をめざして―」において、労働時間短縮のための取り組みの指針として、
(1)時短意識の向上と職場風土の改善
(2)適正な労働時間管理の徹底と過重労働対策の強化
(3)年間所定労働時間の短縮
(4)時間外労働の削減
(5)年次有給休暇の完全取得、取得率の向上
(6)パートタイム労働者等の課題
(7)労働時間等設定改善法の活用
の7点が挙げられているとしています。
 第4章「労働時間短縮へ向けた企業の取組」では、「経営側にとって、労働時間短縮が生産性向上の一つの手段として考えられていた以上、労働時間短縮が労働強化によって達成されようとする危険性は、常につきまとうだろう。労働組合が労働時間短縮に介入することで、どのようにした労働強化が行われないような仕組みをつくるのか、この点で労働組合に期待される役割は大きいだろう」と述べています。
 そして、「現在の日本で展開されている人事労務管理のフレキシブル化は、もっぱら、企業競争力強化を図るためのものであった」ため、「より少ない正規ホワイトカラー労働者が、できるだけ多くの業務量を、そしてより長い時間働くような仕組み作りが行われてきた」と指摘した上で、
(1)労働時間短縮のために、まずは無駄な業務を洗い出し、業務の削減に取り組む必要がある。
(2)人数の増員を図ること。
(3)スキルレベルを上げていくこと。
(4)「自発性が強制されないように」人事考課のあり方の改善が必要である。
(5)労働時間に関してはフレキシブルな労働時間制の制限が必要である。
の5点を提言した上で、「これらすべてにわたって労働組合が適切に関与していくことの重要性」を強調しています。
 本書は、日本の長時間労働の原因と改善策を探った一冊です。


■ 個人的な視点から

 10人の正規ホワイトカラーでやっていた仕事を5人の正規社員と5人の非正規社員でやるようになれば、正規社員一人あたりの残業が増えるのは当たり前ですね。
 無駄をなくして生産性を上げていく、というのが答えだとは思いますが、号令だけかけて個人任せにしてもやるはずもないしやれるはずもないのですが、IT化の時のような目に見える人員削減効果がないと組織としては動けないもののようです。


■ どんな人にオススメ?

・時間を取り戻したい人。


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