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2016年7月23日 (土)

ナチスと自然保護: 景観美・アウトバーン・森林と狩猟

■ 書籍情報

ナチスと自然保護: 景観美・アウトバーン・森林と狩猟   【ナチスと自然保護: 景観美・アウトバーン・森林と狩猟】(#2547)

  フランク ユケッター (著), 和田 佐規子 (翻訳)
  価格: ¥3,888 (税込)
  築地書館(2015/7/29)

 本書は、「ナチス時代のドイツにおける自然保護に関する議論を、広範囲にわたってまとめたもの」です。
 著者は、「自然保護主義者たちの政治的な特性は振り返ってみれば痛いほど明らかだ。自分たちの目指すものを手に入れるのに有利となれば、いかなる機会をも逃すまいと待ち構えていたのだ。彼らが支払った代償の大きさに気がつくのは、次の世代の自然保護主義者たちだった。彼らの全世代はナチスの大量虐殺の共犯者となったのだった」と述べています。
 第1章「ナチス時代の自然保護主義者たち」では、「ナチス党が自然保護活動を信奉していたのか――あるいはその逆――という問題は、好奇心をそそるが、結局無意味という以上の説明を、歴史上に補足してくれるのだろうか」と述べた上で、原書のタイトルの『緑と茶色』について、「『緑』と『茶色』は遠くはなれたところにある陣営ではなかった。多くの信念を共有し、驚くほど広範囲にわたって共同する2つの集団だったのである。緑は多くの点で茶色だったのだ。これから明らかになってくるのは、複雑で単純明快な説明を拒む物語である」と述べています。
 第2章「歪む愛国主義」では、「ナチス体験を踏まえれば、自然保護運動の政治的立場は特別な注意を要する。一般大衆の間の強い地域主義にもかかわらず、ドイツの自然保護運動はその時代の最もブルジョア的な運動であり、つねにナショナリストの集まりだった」と述べています。
 そして、「自然保護と国家社会主義との思想的な合流は思った以上に困難を伴った。ヒトラーの著作や演説のテーマは自然保護主義者の問題意識から遠く離れていただけでなく、注意深い読者には激しい環境破壊の含みも明らかだった」と述べ、「ヒトラーにとって、アルプスの景色は自分を目立たせるための背景に過ぎず、ベルリンでの政府の官僚仕事からの避難所の役割以上ではなかったのである」としています。
 また、「ナチス時代の自然保護の歴史について、その著しい特徴として、自然保護団体と真のナチス精神とでは異なった自然保護を提案していても、それぞれの思想家たちの間に対立抗争が全く無かったという点があげられる」と述べ、「ごく一般的に言って、自然保護主義者が力点を置いているのは人間と土地のつながりであり、これはナチスの『ゲルマンの民族性』と『血と土地』の思想とうまく同調した」と述べています。
 第3章「最高潮を迎えたドイツ自然保護」では、「もしも自然保護とナチスの思想の間の関係について要約するとすれば、緑(自然保護)と茶色(ナチス)の間の協調関係の中で行われる運動は、一般化して説明することはできないということになる。結局、さまざまな思想の複雑にすぎる混合物だったのである」と述べた上で、「ナチス政権の最初の2年間は自然保護運動にとって、不穏な均衡を保っていたと言える」としています。
 そして、「両陣営は1935年に劇的に接近し、ナチスに対して、熱狂とまではいかないまでも、強い献身へと心情は変化した」として、1935年の帝国自然保護法を挙げ、「この帝国自然保護法が真に革命的だった部分は、ドイツ自然保護の伝統的基準をはるかに超えて、重要な保護の目的として景観の保護を含んだことだ」と述べています。
 また、「1935年の初めの段階では、帝国自然保護法の先行きは芳しくないように見えた」が、「状況が大きく変わったのはヘルマン・ゲーリングがこの問題を取り上げ、立法を強力に推し進めたこと」によるものであり、「第三帝国における公式の森林管理理念」として知られるようになった「ダウアーヴァルト(Dauerwald)」について、「樹齢もまちまちでときとして樹種さえも異なる、森全体の生態系にも優しい、そんな森の継続的な利用を想定するものだった」と述べています。
 著者は、「結局のところ、ナチス時代、ドイツ自然保護運動に関係する団体間には揚力な同盟関係は発生しなかった」が、「3つの重心の周りに役者グループがかなり混沌とした状態で存在していた」と述べています。
 第4章「自然保護の可能性と限界」では、4つの事例を紹介し、「ナチス時代ドイツにおける保護活動の可能性と限界」が見えてくるとしています。
 そして、「ゲーリングの自然保護制作は2つの目的のために行われていた」として、「保護区は動物や植物にとっての天国を用意すると同時に、そこはカリンハル邸の完璧なる背景であり、かつ熱心なハンターの活動領域だったのである」と述べています。
 また、4つの事例について、「成功の度合いはそれぞれのケースで異なったが、自然保護主義者たちがとった戦略は驚くほど酷似していた。行政が内密に活動を行ったり交渉したりすることをナチス政権が積極的に支持していたことは明らかで、一般市民を巻き込んだ抵抗運動はどのようなものでも疑り深く監視された」として、「自然保護の活動が成功するとするなら、あるいは少なくともいくらかでも前進があるとすると、前身の道は行政内部での交渉だったのである」と述べています。
 第5章「ナチスとの蜜月の終わり」では、「多くの自然保護課にとって、帝国自然保護法は心躍る経験だったとした上で、「戦時中の資料を見ていて驚くのは、一般的に言って、自然保護活動の日々の活動の中でナチスのイデオロギーはごく周縁的な役割を果たしているだけだという点だ」と述べています。
 そして、「自然保護に携わった人々の間に広く共通したジレンマとは、ナチス時代の多くのドイツ人にもよく知られたものだった。許容と妥協という意味で全体主義政権にどこまでついていけるのかという問題である。しかし、自然保護主義者としてこのような大きな心情の変化に耐えることができたか、あるいは少なくとも外に表したグループはほとんどなかった」と述べ、「ナチスが政権を取ってからは、特に1935年の帝国自然保護法の成立以後は、自然保護団体の仲間たちはヘルマン・ゲーリングとアドルフ・ヒトラーの中核的目標であるとして自然保護を協力に売り込んでいったのだ。自然保護者たちがナチスとの友好関係へと入っていったことは、ある意味では、物質的利益を求めて精神的価値を犠牲にしたファウストの取引のようなものだった」と述べています。
 第6章「変貌を遂げた景観」では、「結論として、ナチス時代の環境に関する収支バランスを査定することは驚くほど困難のようにおもわれる」とした上で、「自然保護運動にナチスが正式に参入してくるということは、環境への壊滅的な被害をわずか一歩手前で食い止めたというだけだったかもしれないが、それでも多少はプラスの効果があったのではないか」と述べています。
 第7章「継続と沈黙と」では、「ナチス時代が終わった後の自然保護主義者の間で支配的になっていた感情」として、「ドイツ社会のどの部分をとっても同様だ。すなわち、『過去について語りすぎてはならない』というものだ」とした上で、「たとえ環境主義者たちが自身の歴史の存在を認めるとしても、語り出さないほうが望ましい重荷として見ていたのである。このように、ナチスの過去とは、なにか厄介な影のような存在、一斉に空気中に拡散してしまう、語ることが不可能なテーマとなった」と述べています。
 第8章「教訓」では、「イデオロギー問題ばかりに注目していては、近視眼的な捉え方になるだろう」として、「自然保護主義者たちの社会とナチスの間のイデオロギー上の友好関係は不完全なものにとどまっていた。自然保護主義者は、しばしばナチスのレトリックを借用するようになったが、両者の考え方が継ぎ目なしに一体となることは実現しなかった」と述べた上で、「ナチス時代に自然保護主義の社会に参加するために必要だったのは、ナチスの権威に対して喜んで協力する態度と、言うまでもないことだが、意見の相違する点についてはいつでも口をつぐむ準備ができていることだ。当時のドイツ自然保護主義者たちは、進んでこの対価を支払ったものが大多数だった」と指摘しています。
 本書は、戦後のドイツ社会において語られることのなかった「ナチスへの協力」問題を自然保護主義者について炙りだした一冊です。


■ 個人的な視点から

 「ナチスへの協力」問題は戦後ドイツ社会の最大のタブーであったわけですが、普段世の中の一段高いところから高潔な主張をしている自然保護主義者とナチスの関係となればなおのことハードルは高かったのではないかと思います。特にドイツの環境政策を持ち上げまくる出羽守にとっては梯子を外される事態なのではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・ドイツの自然保護は世界一ィィィ!!!と思う人。


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