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2016年7月20日 (水)

源流からたどる翻訳法令用語の来歴

■ 書籍情報

源流からたどる翻訳法令用語の来歴   【源流からたどる翻訳法令用語の来歴】(#2544)

  古田裕清
  価格: ¥1,620 (税込)
  中央大学出版部(2015/12/7)

 本書は、「法律用語もほとんどがドイツ語やフランス語からの翻訳語である」ことから、「日本の法律用語統括に英訳すると、ローマ法と英米法という2つの異なる伝統が混戦して、誤解が発生しかねない」ため、「法律用語の欧州語原語からの来歴を辿りつつ、英文の法務文書に関わる企業関係者にとって有益な視点を提供」することを目的としたものです。
 第1話「債権と債務」では、「英語の法律用語はコモンロー(ゲルマン慣習法)の伝統に裏打ちされたものが多い」ため、「英文契約書の作成時には単なる翻訳のみならず、ローマ法とコモンローの伝統同士のぶつかり合いも生じる」と述べています。
 第4話「義務と責任」では、「現代的な理解では、責任と義務は異なる。責任とは、自由を行使した結果を自ら引き受けること(自己責任)」であるのに対し、「義務とは、自分の自由意志と独立に、何であれ規範(宗教的規範、道徳的規範ん、法的規範)が命ずるもの」だとした上で、「dutyとdebtは元来、同じ後であり、債務を意味する」が、「debtはいまも原意を保つが、dutyはより一般的な『義務』を表す語へと変質した」と述べています。
 第5話「善良なる管理者」では、「日本民法中の『善良な管理者』という語はボアソナードの置き土産で、その源はフランスにある」とした上で、「管理者の『善良さ』は過失がないことを意味するが、これもローマ法起源の考え方。管理者が善良かどうかの判断指針として、欧州大陸では伝統的に家父との類否が用いられる」と述べ、「英語圏の方には管理者を家父と類比的に捉える習慣がない」と述べています。
 第7話「事務と業務」では、「日本の法律用語には『義務』『債務』など『務』で終わるものが多い」ことについて、「『義務』はduty、『債務』はobligationの直訳語で、明治期の新造語。『事務』や『業務』は古くからの二次熟語だが、明治期に欧州の法律用語の直訳語へと転用され、現在に至っている」と述べています。
 第8話「請求と請求権」では、「明治以降、日本語はclaimの二重性格を律儀に分析し、事実としては『請求』、理念としては『請求権』、と訳し分けた」ため、「日本語の翻訳語彙(いわゆる専門用語)は飛躍的に増大した」一方、「日本語空間では理念と事実が分割・並列され、語彙に潜む欧州的なダイナミズムは平板化されてしまった」と述べています。
 第11話「瑕疵」では、「売買当事者の悪意・善意に応じて両者に責任と権利を割り振る日本民法の規定も、買主保護に力点を置くドイツ法の影響下にある」として、「こうした規定は当事者主義を原則とする英米法にはない」と述べ、この違いを、「英米法の原則は『買主注意せよ(Caveat emptor)』、ローマ法系のそれは『売り主注意せよ(Caveat venditor)』と形容されることもある」と述べています。
 第12話「危険について」では、「hazardはもともとアラビア語で『さいころ』の意。現代英語では『どう転ぶかわからない不確実性(不注意なまま放置すると事故やトラブル発生に繋がる)』、転じて『事前に注意を向けて対策を立てておくべき事態』を指す」と述べています。
 第14話「無効・解除・取消・撤回」では、「日本民法で無効・解除・取消・撤回は相互に異なる概念であり、その用語法は概してドイツ法に由来する」とした上で、「日本では、法的思考の基本は法的三段論法である、と教えられる。これは19世紀ドイツの概念法学が提唱したもので、法規範(大前提)と要件事実(小前提)から法的効果を演繹する操作。法規範は成文法の規定・解釈により与えられ、その要件に該当する事実があれば法的効果が必然的に発生する」と述べています。
 第15話「『約款』について」では、「欧米には約款規制の考え方に大きく2つの方向性がある」として、
(1)欧州のように制定法で規制する。
(2)当事者主義の米国型。
の2点を挙げています。
 第16話「公正」では、「カルテル(cartel)は約束事を書いた切れっ端(伊語cartello)が原意。騎士の決闘作法のメモ書きから転じて、企業連合や国家連合などを意味するようになった」と述べています。
 第21話「権原と権限」では、「『権原』はボアソナード民法が仏語titreに充てた訳語で、『権利の原因』の略語」であるのに対し、「権原があれば、それに基づき一定の範囲で何かをやってよい。その範囲を強調する表現が『権限』(『権利の限界』の略語)」だと述べています。
 本書は、日本の法律用語をその原語から読み解いた一冊です。


■ 個人的な視点から

 法律関係の用語は、一般的に使う言葉とは少しかけ離れていて、最初はとっつきにくいのですが、翻訳前の元の言葉の意味を知ると現在の形になっているのもやむなしと思ってしまうのです。


■ どんな人にオススメ?

・法律の言葉はわかりにくいと思う人。


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